毎朝定刻にすっきり起床
労働災害リスクも軽減

昼夜の別なく活動する"生活の24時間化"がいわれて久しい。年をとると、夜勤や勤務時間が変則的な仕事はつらく体調を崩しかねない。毎朝定刻に起きる努力や、寝室の明るさや音に注意することなどが大切。工夫して上手に眠るように心がけたい。


東京電力品川火力発電所(東京・品川)。発電所を制御する中央操作室では毎日3度勤務班が交代する。日勤と夜勤、休日を組み合わせた8日間で1サイクルの交代勤務を採用している。
「年をとるにつれて夜勤の時には睡眠に配慮するようになった」と当直長の羽成恭男(51)さん。夜は努めて交代で仮眠をとるという。

加齢とともに、夜中に目が覚めるようになったり、いったん目覚めると再び眠れなくなったりする。夜勤や交代勤務もつらく感じるようになる。睡眠不足だと疲労がたまって体がだるくなるし不眠などを招く。

東電では食事や運動、睡眠に注意してもらおうと冊子を配布している。「強制するものではないが、生活パターンを工夫する参考にしてもらえれば」と、作成にあたった同社技術開発研究所の武藤敬子主任は説明する。

冊子で提案している眠り方の一例はこうだ。夜勤にはいる日は「朝しっかり起きて午後に眠る」、夜勤から帰宅し再び夜勤に出かける日は「午前中によく眠れなければ午後からもう一度眠ってみる」、夜勤明けの日は「昼間はできるだけ起きていて夜に眠る」――など。生活パターンを考慮してきめ細かくアドバイスしている。

人間は誰でも生体リズム(いわゆる体内時計)をもっており、これが睡眠や体温、気分などを制御している。夜勤や交代勤務などは、昼に活動し夜眠るというリズムを乱しがちだ。

睡眠の専門家たちが先ごろ公表した「働く世代の快眠10か条」(作成委員会代表・太田龍朗名古屋大学名誉教授、永田頌史産業医科大学教授)は、睡眠に関して考慮すると良い点を紹介している。

例えば、起床時間をそろえること。毎朝定刻に起きて日光を浴びることを勧める。生体リズムは朝、日の光を浴びることで仕切りなおすから理にかなっている。睡眠時間は人によってそれぞれ異なり、7時間ほどを目安とすることや、覚せい作用のあるカフェインの効き方から考えてコーヒーなどは就寝4時間前から控えることも指摘している。

当直明けに十分な睡眠
をとるうえで家族の協力も不可欠という。寝室を暗くするなど明るさや音などに配慮することを提案している。

国内では全事業所の約2割が交代勤務制を採用しているといわれる。交代勤務や夜間の仕事は看護師などの医療関係者やタクシー運転手、深夜営業レストランやコンビニエンスストアの店員などほかにもいろいろある。こうした仕事では生体リズムを崩しやすいため、注意が必要だ。

交代勤務と睡眠の関係を研究・調査している産業医学総合研究所の高橋正也主任研究官によると、スウェーデンでの調査では交代勤務者の"健康度"はそうでない人に比べて低いという。調査は、一方が交代勤務の経験がある65歳以上の一卵性双生児169組を対象にした。遺伝子が同じにもかかわらず、交代勤務者の"健康度"はそうでない兄弟の1.67倍悪いという結果だった。

生活習慣病やうつなどの心の病気も交代勤務による睡眠不足によって起因すると考えられる。睡眠不足によって産業事故の発生リスクが8倍になるという調査もある。

看護師の睡眠問題を研究している東京医科歯科大学の阿部俊子助教授は看護師が良質の睡眠をとるためには@できれば夜勤後すぐとその日の夜の2回睡眠をとるAまとまった睡眠を6時間以上とる――などが大切という。これらは他の交代勤務者などにも参考になりそうだ。産医研の両面から睡眠に配慮した勤務体制を組むことが大切」と強調する。
(編集委員 中村雅美)

働く世代の快眠10カ条

第1条 十分な睡眠で仕事のやる気と効率が向上
快眠は労働災害のリスクを低下させる
第2条 日中の充足感が快眠のバロメーター
8時間睡眠にはこだわらない
第3条 快眠の秘けつは朝の起床時間にある
毎朝決まった時刻に起き日光を浴びる
第4条 わずかな昼寝で仕事の効率が向上
15分程度の昼寝が眠気を減らす
第5条 自分にあった快眠法を工夫
コーヒーや茶、喫煙は寝つきを悪くする
第6条 就寝前のリラックス法を見つける
ぬるめの入浴や軽い読書・音楽など
第7条 光、音などの寝室環境を整える
寝室の温度や湿度の調節にも配慮を
第8条 眠気が来るのをじっくり待つ
床にいる時間の短縮で熟睡感が増すことも
第9条 不眠が続くとき早めに医師に相談する
睡眠障害は心身の病気のサイン
第10条 交代勤務を工夫し睡眠時間を確保する
夜勤明けの睡眠では家族も音などに配慮を
(10カ条作成委員会)

ひとくちガイド
≪書籍≫
◆睡眠を知るために
「睡眠学−眠りの科学・医歯薬学・社会学」(2003年、株式会社じほう)
≪ホームページ≫
◆睡眠障害の治療に取り組む医師らのサイト
「快眠推進倶楽部」http://www.kaimin.info
2004.4.18 日本経済新聞