謝罪は直接会って
機密事項も要注意


便利な電子メールだが、万能の通信手段とはいえない。例えば謝罪すべきときにお手軽にメールで済ませ、取引先などの不興を買っていないか。「メール版やってはいけないこと」を把握しておこう。

ある会社員の話。同じ人から10通以上クレームメールを受け、そのたびメールを返したが、最後に切れて「なんで分からないんだ。おまえはバカか」と送ってしまった。返ってきたのは「あんたの対応は不誠実だ。メールをすべて公表してやる」との一文。字面だけのやりとりによるすれ違いで悪感情が高ぶりかねないのがメールの怖いところだ。

メールの質問にはメールの回答が当然だと考え「取扱説明書をもう一度読み返して下さい。必ず動くはずです」などと返信する。懇切丁寧、平身低頭のつもりでもそこまでメールは伝えてくれない。機械的な対応と相手も頭に血が上り、泥沼になりかねない。

「クレームや感情的な抗議のメールにはできる限り会ったり、電話で話したりすべき」とITコンサルティングのきゃむネット(東京・荒川)の金沢良昭さん。メールには表情やしぐさ、声の調子がこめられず、こちらもクレームの意図をくみ取りにくい。

メールは言葉を尽くしても、一方的にこちらの意図をまくし立てることと同じ。また、のちの証拠として残り、言質を与えやすい。「メールしか連絡方法がなければ、抗議内容に触れずに『お話させていただけませんか』と返信した方がよい」と金沢さんは話す。
「相手への謝罪。ドタキャンの連絡。断られると困る大切な依頼。これらをメールだけで行うのは虫がよすぎる」とは「メールのためのe文章入門」の著書もあるノンフィクション作家、枝川公一さん。
「メールは不完全なもの。便利だからといってそれだけで済ませたら危険」という。謝罪でも応急的にメールを出すのはよい。ただし、事態の深刻さにもよるが、あとで会って誤るのが原則だ。ドタキャンは相手がメールを見なければ伝わらないわけで、電話も必ず入れる。ややこしい依頼ごともメール以外できちんと説明し、誠意を伝えたい。

重要な文書を気軽にやりとりするのも危ない。顧客リスト、個人情報があて先間違いなどで流出することもある。
「○○社のAさんはこう言ってるのですが」などと他人から聞いた話をうかつに書き込むのも駄目。受取人がAさんに転送するなど簡単。人間関係がもつれる。

転勤や異動のあいさつをメールで出すのはどうか。新たなメールアドレスや住所などを伝える意味では有効だ。気をつけたいのは「はがきに印刷するような決まり文句だけだと逆効果」(枝川さん)という点。存在中の感慨や新たな心境まで書けばいいあいさつになるが、決まり文句ではただの無精ととられる。

メールの書き方も要注意。相手のメールをそのままにしてやりとりしていると、金魚のフンのように最初からのメールが垂れ下がり見苦しい。履歴を残す場合もあるが、出した手紙をそのまま同封して返されたような気分になる場合もある。

金沢さんは返信の引用は質問部分など必要な部分だけを残すよう薦める。返信の件名も「目下の人が適切な件名に変えた方がよい」という。また1本のメールを1トピックに。

「cc(同報)機能」使ってやたら多くの人に送るのも考え物だ。「自分が主たる受取人でないメールはノイズのようなもの。メール自体への注目率が下がり効率が悪い」(金沢さん)

「問いかけ型の文章を多くしてはいけない」と指摘するのは枝川さん。質問には「私はこう考えますがあなたは?」というスタンスを併記したい。単なる疑問文の多用は「相手を問いつめるニュアンスが強くなる」からだ。

相手が読みやすいよう、文章の長さもそろえる。また「返信は24時間でというのが、およそのルール。回答が電話なら数分でできるということも多い」(金沢さん)。場面場面で本当に電子メールが有効か、考えよう。

メール版 やってはいけない10ヵ条
状況編
1.
抗議・クレームへの対応
2.
謝罪や重要な依頼、緊急時の連絡
3.
社外秘にあたる文書のやりとり
4.
他人の話、うわさ話
5.
(紋切り型の)転勤・異動のあいさつ
用法編
6.
返信の丸ごと引用
7.
質問や問いかけの多用
8.
「CC」(同報)の多用
9.
文章の長さのバラツキ
10.
返信に何日もかける

 

2003.11.15 日本経済新聞