精子だって老化する 「35歳から」説も 国内外で進む研究


精子だって老化する 「35歳から」説も 国内外で進む研究

 女性が30代後半から妊娠しにくくなる主要な原因として「卵子の老化」が広く知られるようになった。それに続き、精子も老化の影響を受けるとの研究が近年、注目を集めている。国内の専門家は35歳が「曲がり角」となる可能性を指摘。女性ほど影響は大きくないが、子どもが欲しいなら男性も先送りはできるだけ避けた方がよさそうだ。

▽父も高齢化傾向

 精子と卵子には大きな違いがある。卵子は、女の子が胎児の段階で既にもとになる細胞が卵巣の中にそろっており、誕生後は数が減る一方。これに対し精子は、思春期以降高齢になっても、もとになる細胞が盛んに分裂し、毎日新しく作られる。

 英俳優チャプリンをはじめ、高齢で父になった有名人が内外で何人も知られており「精子は老化と無縁」というイメージは強い。女性の高齢出産では明らかに増える子どもの染色体異常の発生率についても、父が高齢であることの影響はないだろうと考えられてきた。

 一方、女性の「晩産化」と並んで男性が父親になる年齢も上昇傾向にある。厚生労働省人口動態統計によると、国内の母親の平均初産年齢は2011年に30歳を超え、12年は30・3歳に。父になる平均年齢も32・3歳に達した。精子にも老化があるとすれば気になる傾向だ。

▽DNA変異が増加

 精子の老化に関する研究は海外に多い。12年にはアイスランドのチームが英科学誌に発表した研究が注目を集めた。同国内の78組の親子(両親と子ども1人)の全遺伝情報(ゲノム)を詳しく分析し、父親の年齢が高いほど、子どもに伝わるDNA配列の変異が増えることを突き止めた。

 見つかった変異は小さく、染色体異常と違って大半は健康への影響はないが、中には病気との関連が報告されたものもあった。精子のもとになる細胞は活発に分裂するので、分裂の際にDNAの複製エラーが起きるリスクはある。

 このほか、父親の年齢が高い方が、妻が妊娠しにくく、流産率も高まるといった研究もある。

▽見た目で分からず

 国内でも研究が進行中だ。男性不妊に詳しい独協医科大越谷病院の岡田弘(おかだ・ひろし)教授(泌尿器科)は、独自の試験結果を基に「35歳ごろから精子の機能が落ちる人が一定の割合でいる」と提唱する。

 岡田さんは、子どもができず男性不妊外来を受診したが、精子の数や動きなどを見る通常の精液検査では異常が見つからない20〜40代の患者100人から同意を得て、精子の受精能力を調べる試験を実施した。かつて不妊治療の現場でよく行われた検査法を応用し、精子1個をマウス卵子の中に注入して、卵子を活性化させる能力があるかを観察した。

 能力があった精子の割合は、20〜34歳では70%を超えたが、35〜39歳は65%、40〜44歳は54%、45〜49歳は41%と、35歳を境に能力が低下する傾向がみられた。一方、既に子どもがいる健康な20〜40代の男性30人の精子で同じ試験をすると、年齢に関係なく68〜85%と高い成績だった。

 岡田さんはこの結果を「年齢が進んでも精子の機能が落ちない人もいるが、中には35歳ごろから低下する人がいる」と解釈している。米国でも昨年、不妊クリニックの約5千人分の精子を調べ、35歳から精子の数、運動率などの低下が始まるとした研究が発表された。

 こうした結果を深刻に受け止め過ぎるのも問題だが、岡田さんは「女性だけでなく男性も、子どもを持つ人生設計を若いうちから考える必要がある」と話している。(共同=吉本明美)

提供:共同通信社 2014年7月8日(火)

2014年7月10日更新