感染症:敗血症で選択すべき抗菌薬は


敗血症で選択すべき抗菌薬は
東京医科歯科大学、2013年研修医セミナー

壊死性筋膜炎に合併した敗血症性ショック。
速やかな対応が求められる中で選択すべき抗菌薬とは。
東京医科歯科大学研修医の竹内彬氏が解説する。
まとめ:酒井夏子(m3.com編集部)

■敗血症の「経験的投与」と「標的治療薬」

竹内 それでは、各論のもう一つの大きなテーマである敗血症についてお話ししたいと思います。今回、私たちが経験した症例は前述しましたが、壊死性筋膜炎で敗血症性ショックを合併した患者です。その敗血症の治療では、「日本版敗血症診療ガイドライン」を参考にしました。まずは抗菌薬治療について紹介します。

抗菌薬治療

 まず投与すべき抗菌薬についてです。これは、敗血症というよりは一般的な感染症全般に言えることですが、「経験的投与」、いわゆるエンピリックな投与と、「標的治療薬」の2つに分けることができると思います。「経験的投与」は、とりあえず最初に入れておく抗菌薬のことで、大まかに原因菌を推定した上でなるべく広域をカバーする抗菌薬が推奨されています。また、培養などで原因菌が同定できた後は「標的治療薬」への切り替えが推奨されています。感受性試験を踏まえて、抗菌薬のde-escalationを行っていくということですね。

抗菌薬治療

 抗菌薬治療の治療効果の指標ですが、これも感染症一般に言えることですが、ラボデータのみに頼らずに、vital signや臓器機能の改善などを総合的に考慮してください。「WBCとかCRPに頼らずに」と、よく指摘されることですね。

 それでは本症例の抗菌薬治療の実際を見ていきましょう。

症例の抗菌薬治療の実際

まず投与を開始するタイミングですが、前提としてこの患者さんは当院搬送前に前医で数時間、待合室で待たされていたということでした。そのため、抗菌薬治療の開始のタイミングが大きく遅れをとってしまいました。

 実際に投与した抗菌薬の種類ですが、前医からの継続でメロペンとバンコマイシンを、さらに原因菌が同定できた後、レボフロキサシンへの切り替えを行っています。また最後のほうではカンジダも検出されたためにフルコナゾールの投与も行いました。

軟部組織感染症に対する抗菌薬投与

こちらがガイドライン上で示されている経験的抗菌薬投与、軟部組織感染症に対する抗菌薬投与です。この患者さんが実際に海水や淡水への暴露もあるというエピソードがあれば、今回投与したメロペネムとシプロフロキサシンがエンピリックとして推奨されています。今回の症例では原因菌がエアロモナスだったのですが、エピソードが良く分からなかったので、メロペネムとバンコマイシンを継続して投与することにしました。

培養結果

 培養ではAeromonas hydrophilaという菌が検出され、第一推奨薬としてはシプロフロキサシンが推奨されています。ただ、感受性試験の結果、同系統のレボフロキサシンが感受性ありとなっていたので、今回の症例ではレボフロキサシンを投与しています。

■カンジダ感染症の治療

 また最後の方ではカンジタも検出されたので、真菌感染についても軽く触れておきたいと思います。敗血症ではカンジダ感染症がある場合、予後不良と報告されています。

抗菌治療_真菌感染症について

 カンジダ症の一般的な治療については、投与薬としてはフルコナゾールが第一選択です。標的治療薬のフルコナゾールで少し効果が弱いときには、ミカファンギンやアムホテリシンBへの変更が推奨されています。また、継続期間としては、培養が陰性化したあとの最低14日間投与が推奨されており、なかなか根気のいる治療になります。

カンジダ症の治療

 ACTIONs Projectという専門の委員会がカンジダ症で遵守すべき項目をリスト化したものでも、初期選択薬の効果判定を3〜5日後に行い、効果がなければ、第二選択薬への切り替えが推奨されています。

 これがカンジダ症治療の流れです。入院12日目ぐらいに尿培からカンジダが検出されると同時に、β-Dグルカンが高値を示していました。また、この患者は当然ICUで管理されている訳ですが、挿管やカテーテル、多数のラインがつながっており深在性真菌症の高リスク患者でありましたので、総合的に判定して深在性のカンジタ症と診断しました。それでACTIONs Projectのチェックリストに則り、フルコナゾールの投与を行いました。

壊死性筋膜炎症例でのカンジダ症治療

 ただ残念ながら、この患者は効果判定を行う前に食道静脈瘤破裂で死亡してしまったので、治療が奏効していたかは分かりませんでした(続く)。

 

引用:酒井夏子(m3.com編集部) 2014年5月9日(金)

2014年6月5日更新