息、歩調に合わせ
セロトニン増え疲労減

手軽に楽しめる健康法として人気の高いウオーキング。この春から始めようと思っている人も多いだろう。そこで、ウオーキングの健康効果がより高まる「ウオーク呼吸法」を紹介しよう。
普通のウオーキングに呼吸法の要素をプラスしたもので、手軽なのに疲れにくく、気分がそう快になることを実感できる方法だ。通勤や買い物のときも、この歩き方を試してみよう。



「驚きました。息づかいを変えただけなのに、歩いた後の疲れ方が全然違うんです」。東京都内に住む女性のAさん(42)は、ちょっとした上り坂や階段でも息が切れやすかった。体力に自信がもてず、「歩くのがつらい」と感じていた。

ところが、歩くリズムに合わせて呼吸をするウオーク呼吸法を試したところ、疲労感や息切れが激減。駅の階段もこの方法なら快調に上れるという。「今では、歩くことがすっかりたのしくなりました」と話す。

Aさんが実践しているウオーク呼吸法は、歩く足のリズムと呼吸のリズムを合わせるもの。具体的には、足を1歩前に出すときに息を吐き、次の足を出すときに吸い、その次も吸う。足を出すタイミングに合わせて息を「吐く→吐く→吸う→吸う」と繰り返していくものだ。

実際にやってみると非常に簡単だ。これだけのことで疲れにくくなるなど、ウオーキングがより効果的になるのはなぜだろうか。

「疲労感が減るのは、脳内の『セロトニン』という物質が増えるため」と、東邦大学医学部生理学第一講座の有田秀穂教授は話す。

セロトニンは脳内に放出されて、気分や集中力を左右すると考えられている物質。脳内のセロトニン量が増えると、心が落ち着いてさわやかな気分になり、集中力が高まる。座禅のめい想中はセロトニン量が増えていることが確認されている。一方、うつ病の人は脳内のセロトニン量が減っていることが多いという。

セロトニンには、痛みや疲労、ストレスなどを感じにくくする働きもある。セロトニン量が増えると、体の疲れや筋肉痛をあまり感じずに、気持ちよく体を動かせるようになる。

有田教授によると、脳内のセロトニン量を増やすには「筋肉を意識的に、規則正しく収縮させること」だという。例えば、座禅では丹田呼吸法といって、息を吐くときに下腹(腹筋)をぎゅーっと絞るように縮めて呼吸する方法がある。この周期的な収縮が、セロトニン量を増やすのに有効だとみられている。

ウオーキングも規則的な運動なので、セロトニン量を増やすのに有効だ。ただし、何気なく歩くだけだと、筋肉を意識的に動かしていることにはならないので、「セロトニン量を増やす効果が少ない」と有田教授。

一方、ウオーク呼吸法は「歩く動作と呼吸のリズムを合わせるので、足と呼吸に使う筋肉の両方に意識が向き、セロトニン量を増やす効果が高い」と話す。

実際、有田教授が行った実験では、20分間のウオーク呼吸法ではセロトニンの量が2倍近くに増えた。

ウオーク呼吸法をやるときには、息は口から吐いて鼻から吸う。「最初の2歩で息をしっかり吐いて、次の2歩自然に鼻から空気が入ってくるような感覚で」と説明するのは、ウオーク呼吸法に詳しい龍村ヨガ研究所(神奈川県秦野市)の龍村修所長。

「息を吸う動作は、肩に力が入りやすい。息を吐くことを意識する方が、リラックスできる」(龍村所長)。息をしっかり吐くには、口をすぼめ、ろうそくを吹き消すように「フーッ、フーッ」と、おなかから息を吐こう。

ウオーク呼吸法の効果
1. 坂道や階段を上るとき、疲れにくい
2. 10分ほどで心がスッキリ晴れ晴れする
3. 毎日続けると集中力が高まり、プレッシャーに強くなる
この歩き方に慣れてきたら、「息を吐く歩数だけを3歩、4歩と増やしてみたい。リラックス感が高まる」(龍村所長)。

個人差はあるが、早ければ歩き始めて10分ほどでそう快な気分になるだろう。通勤や買い物で歩くときに、ウオーク呼吸法を試してみたい。もちろん、普段のウオーキングをウオーク呼吸法に切り替えれば、疲れ方が違うはずだ。

2、3ヵ月間、このウオーク呼吸法を毎日20−30分続けていると、脳内のセロトニン量がウオーキングをしてないときでも多くなるという。「プレッシャーに強く、ものに動じない性格になれます。ゴルフのパッティングなど、いざというときの集中力も高まる」と有田教授は勧める。

(『日経ヘルス』編集部)
(2003.3.15 日本経済新聞)