高齢者が急増している現代日本では、単に寿命が長いことよりも健康で充実した人生を楽しむという「健康寿命」がより大切だと言われている。背景には「自立した生活」を続けたいという高齢者自身の願望がある。そして自立した生活の原点は言うまでもなく「自分で歩く」ことである。

 

 よく歩くと足(下半身)が鍛えられるが、歩かないと下半身から老化が進む。高齢者は時に転んで骨折をして寝たきりになる例がある。よく歩く人は下半身が強く、めったに転倒しない。また全身運動はカルシウムが骨に沈着するのを促進するので骨粗しょう症を予防し、転倒時の骨折も予防する。高齢者にとってウォーキングは「転ばぬ 先のつえ」以上の効果なのだ。

 さて、現代は飽食の時代であり、だれでもが「食べ過ぎ・運動不足」になりがちだ。消費されなかった栄養物が血液中に多く残った状態は、高血糖症や糖尿病、高脂血症などの原因になる。その状態がさらに続くと、栄養物が体脂肪として蓄積されて肥満がすすみ、脂肪が血管内に詰まると動脈硬化や高血圧症を招くのである。以上の過程はやがて脳卒中や心臓病への道につながってしまう。

 その流れをストップさせ逆転させるのが各種の身体活動である。ウォーキングを数日継続すると、血糖値やコレステロール値は劇的に下がり、これらの症状から徐々に脱出することが期待できる。糖尿病や高血圧症をウォーキングによって克服した事例は多いが、成功のカギは「継続の努力」である。病気になってから治療に力を注ぐより、毎日の生活の中にウォーキングを定着させることで゛生活習慣病を予防できれば、それに越したことはない。

 ある糖尿病患者グループで、治療のためにウォーキングを続けた効果 を調べた成績を図に示した。血糖値、体重、血圧がコントロールできれば、病気は改善されたと言って良い。

 

(九州保健福祉大教授 波多野 義郎)

(2000.6.3日本経済新聞)