起立性調節障害 「怠け」じゃない、朝の不調
 

  朝、具合が悪くて子どもが起きられないと、親は「学校で何かあるのか」と心配になるが、それはもしかしたら「起立性調節障害(きりつせいちょうせつしょうがい)」が原因かもしれない。「怠け病」と誤解されがちで、春から夏にかけて症状が悪化しやすいという。

 川崎市の武大耀(たいよう)さん(19)は、音楽学校に通いながらアルバイトや語学の勉強と忙しい毎日を送っている。だが、中学や高校時代は、学校に思うように行けずに苦しんだ。

 2006年9月のある朝、中学1年だった大耀さんは頭が痛くて体が重く、布団から出られなかった。母香織さんは顔色の悪さに驚いたが、夜はテレビを見るなど元気そうだった。ところが、翌朝以降も同じ調子で、午前中は布団に横になったままだった。

 2人はかかりつけ医を受診。待合室の血圧計で何気なく測定したら、大耀さんの血圧が異常に低かった。血圧や脈拍などの検査の結果、起立性調節障害と診断された。

 大耀さんは「朝起きると頭が真っ白で、何も考えられなかった。勉強や部活もできなくなり、どうしたらいいのか不安だった」と振り返る。

 ●小中学生の10%

 起立性調節障害は、軽症を含めると、小中学生の5〜10%いるとされる。思春期に発症しやすく、不登校の原因になっていることも。大人になると症状が軽減、日常生活への支障もなくなる人が多い。

 人が横になった状態から立ち上がる時、重力で体の血液は下がるが、自律神経の働きで下半身の血管が強く収縮して、脳への血流を維持できる。だが、起立性調節障害の子どもは自律神経がうまく働かないため、血圧が急激に低下して立ちくらみやめまいなどが起こる。

 重症だと、血圧が下がったまま元に戻るのに時間がかかったり、血圧を上げようとして脈拍が急増したりする。受診してもうつ病と間違われ、抗うつ剤などを処方されて症状が悪化する場合もある。夕方から夜には元気になる子が多いため、周囲から「怠けているだけ」と思われがちだ。

 ●周りの理解が必要

 「本人は体調が悪くて落ち込んでいるのに『甘えている』とか『気持ちの問題だ』などと責めてしまうと、治るものも治らなくなる。親子関係がこじれてしまうケースも少なくない。まず、親が焦らずに受け入れることが大事です」。大阪医科大の田中英高准教授(小児科)はこう強調する。ストレスは自律神経のバランスを崩し、病気が悪化する一因にもなるからだ。

 日本小児心身医学会が06年に作成した起立性調節障害の診断・治療ガイドラインによると、起立性調節障害には4タイプある。「新起立試験」と呼ばれる検査でタイプや重症度を診断し、治療方針を決める。田中准教授は「まず、本人や保護者、学校関係者が、体の病気で治るのに時間がかかることを理解するのが治療の第一歩」と話す。

 治療には、血圧を上げる薬を使うほか▽水分を多く取る▽毎日運動する▽生活リズムを整える――ことなどについて、少しずつ取り組む。

 学校を遅刻したり、休みがちになったりするため、学校側の理解も欠かせない。香織さんは、大耀さんが診断を受けてすぐ、担任の先生に病気のことを説明。クラスメートに手紙を書いて、教室で先生に読んでもらった。病気のことを知った上で息子に接してもらいたい、と思ったからだ。

 フリーライターの香織さんは昨年、自分の体験を本にまとめた。「子どもたちは、自分のことで親が苦しむ姿を見るのがつらい。だからこそ、親が元気でいることが大切。そのためにも、周りの理解や支えが必要です」と訴える。

 ●気持ち切り替えて

 「NPO起立性調節障害ピアネットAlice(アリス)」の代表を務める塩島玲子さんは、10年ほど前、中学2年の長男が起立性調節障害を発症した。朝は「気持ちが悪い」とトイレにこもるが、夕方は元気そうに「明日は学校に行く」と言う。その繰り返しにいら立ちを感じたが、子どもに寄り添おうと腹を決めた。

 「気持ちを切り替えたら、自分が楽になった。同じように困っている人に伝えたい」とブログを始めると、アクセスが殺到、親の会の発足につながった。5月6日は午後2時から神戸市で、12日は午後1時半から東京都港区で交流会を開く。一般の参加は500円。メール(pianetalice23@yahoo.co.jp)で申し込む。問い合わせは塩島さん電話080・5505・1400(午後7時以降)へ。【下桐実雅子】

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 ◇起立性調節障害にみられる主な症状◇
 (特に午前中)

・朝起きられない
・立ちくらみ
・全身倦怠(けんたい)感(体が重くてだるい)
・食欲不振
・立っていると気分が悪くなる
・失神発作(気を失って倒れる)
・動悸(どうき)(心臓の拍動が速くなる)
・頭痛
・夜なかなか寝付けない
・イライラ感、集中力の低下

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 ◇参考になる本やホームページ

▽起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応(中央法規、田中英高著、1680円)

▽朝起きられない子の意外な病気(中公新書ラクレ、武香織著、798円)

▽うちの子が「朝、起きられない」にはワケがある(メディカルトリビューン、森下克也著、1575円)

▽起立性調節障害サポートグループ(http://inphs−od.com/

▽NPO起立性調節障害ピアネットAlice(http://greens.st.wakwak.ne.jp/901971/

2013年5月5日 提供:毎日新聞社