日本人に増える脳梗塞 高血圧やメタボから発症

 

近年の日本人に増えているのが、脳の血管が詰まる「脳梗塞」だ。詰まった先の脳細胞が壊死し、命を危機に陥れ、助かっても深刻な後遺症を残すことが多い。本来は中高年に多いが、女子アナウンサーが倒れたように若年性脳梗塞もあり、実は若くても油断ができない病気だ。どう警戒する?【戸田栄】

 ◇しびれや言語障害の前兆/若くても脳ドックへ/まひ側を上に横たわる

 「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の日本人が増えているからでしょう。かつては脳出血が国民病と言われましたが、今は同じ脳卒中の中でも脳梗塞を発症する人の方が圧倒的に多いのです」


脳梗塞への注意を喚起するのは、日本脳卒中協会東京都支部長の高木誠・都済生会中央病院院長だ。一昨年の日本人の死因を見てみよう。

厚生労働省の統計によると(1)がん(2)心疾患(3)肺炎に次いで脳卒中があり、約12万4000人が死亡した。脳卒中は脳の血管の病気全般の総称で脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血がほとんどを占める。なかでも脳梗塞は59・2%に上り、約7万3000人の死因となった。自殺や事故を含めた日本人の死因全体を見渡しても、脳梗塞は約5・8%という高い比率を示している。

漬物や干物など塩辛いものを日常的に食べることや遺伝的要素から、日本人には高血圧が多い。このため以前は脳の血管が切れる脳出血が脳卒中のなかで最も多かった。高血圧の管理が普及して脳出血は減少し、代わりに脂肪分を多く取る食生活の欧米化や体を動かす機会が減ったことなどから血管が詰まる脳梗塞が増加した。「なかでも特に増えているのがアテローム血栓性脳梗塞です。高血圧の他、糖尿病や高脂血症から脳血管内部にアテロームという、脂質などからできるこぶができます。このこぶが血管内を狭くして詰まらせてしまうのです」と高木院長は説明する。メタボへの警戒を呼びかける理由はここにある。

この他にラクナ梗塞、心原性脳塞栓症と合わせて脳梗塞の3大タイプとされる。ラクナ梗塞は、脳の太い血管から枝分かれする細い血管が狭くなり詰まる病気だ。心原性脳塞栓症は心臓でできた血栓が血流に乗って脳まで運ばれ、脳の太い血管を詰まらせる。原因は不整脈の一つの心房細動が最も多く、ミスタープロ野球・長嶋茂雄氏を9年前に襲ったのはこれだった。

「その若さで!」――先月、テレビ東京アナウンサーの大橋未歩さん(34)が脳梗塞を発症し、世間を驚かせた。脳梗塞を含む脳卒中は中高年に多い病気だからだ。全国18カ所の大病院を対象に実施された調査では、脳卒中患者のうち50歳以下の若年性は8・9%、うち脳梗塞は3割強、脳出血は3割弱、クモ膜下出血は2割弱だった。若年性脳卒中に限れば、出血性の割合が高いのが特徴だ。

高木院長によると、脳梗塞を含む脳卒中は、中高年では生活習慣病が背景にある場合が大半なのに対し、若年性の場合、血管壁中に血液が流れて血腫ができやすい「脳動脈解離」や、脳血管が詰まった末に周辺に細い血管がたくさんできる「もやもや病」に起因するケースが多い。「若年性脳卒中の予防には脳ドックを受け脳の健康状態を把握しておくことが大事です」

脳梗塞はどうしたら予防できるのか。

脳梗塞の2割程度には前ぶれがある。これを見逃してはならない。片方の手足、顔半分にまひやしびれがある▽ろれつが回らない。他人の言うことが理解できない▽立てない、歩けない、ふらつく▽片目が見えない、ものが二つに見える――。こうした異変を感じたら迷わず病院へ。一過性の脳梗塞が起きたのだ。地震でいえば前震のようなもので、本震につながる可能性が高い。前ぶれのあった人の10〜20%が、90日以内に本格的脳梗塞を起こすという研究結果がある。

また家族の病歴の把握が重要だ。脳梗塞自体に遺伝性はないが、高血圧や糖尿病には遺伝的要素がある。

日常的な予防法としては、高血圧やメタボへの対策が欠かせない。肥満や喫煙、過度の飲酒、熱い風呂、塩分の取り過ぎに気を付けよう。高木院長は高血圧を甘く見る人が多いことを懸念する。「高血圧は薬で下げられるので大したことはないと放置してしまう人が多いのですが、軽く見ずに受診してください。そうすれば、かなりの脳梗塞は防げるのです」。朝の発症が多いので、朝の血圧測定が重要とも。

最後に、脳梗塞発症時の素早い対応を肝に銘じたい。脳梗塞は一分一秒が勝負。脳細胞の壊死を少しでも減らせれば、生存につながるし後遺症が少なくなる。

脳梗塞が起きたら、その場で横になり、周囲に気づかせて一刻も早く119番通報するのがポイント。まひがある場合は、まひがある側を上にして横たわるのがよい。目の前で人が倒れた場合は脳梗塞を疑い、素早く救急車を呼びたい。

◇隠れ脳梗塞とは

脳ドックを受けると、「隠れ脳梗塞」が見つかることがある。50代以上ではかなりの人が指摘される。脳卒中の既往歴や症状に自覚がないのに見つかる無症候性脳梗塞や、一時的に目がかすんだり思わず箸を落としたりする軽い症状の一過性脳虚血発作の両方を指す。いずれも本格的な脳梗塞の手前にある、小さな脳梗塞だ。

隠れ脳梗塞には「5年以内に約3割が大きな発作に襲われる」という指摘がある。重く受け止めなくてはならないが、専門家は「不安感を募らせるばかりでなく、事前に発見できたのは予防に有効だと前向きに受け止めて。医師と相談のうえ、肥満や高血圧対策、生活習慣の改善などに努めて」と話す。

2013年2月14日 提供:毎日新聞社