高リン酸が老化を促進
 

ハーバード大学リサーチフェロー・大西睦子氏「高リン酸が老化を促進」
[更新日時] 2012/07/31  7月29日、MRIC(Medical Research Information Center)から...
7月29日、MRIC(Medical Research Information Center)から、ハーバード大学リサーチフェローの大西睦子氏の情報提供と同時に、担当者から広く情報を発信の依頼を受けがあり、しかも今回の内容は、歯科関係者にも傾聴すべきと考え、ニュースとして配信致します。内容は以下のとおり。
みなさん、老化の原因をご存知ですか?私たちの研究室では、『高リン酸が老化を促進すること』を報告し(参考文献1、 2)、ハーバード大学の学内誌で紹介され、アメリカのメディアでも話題になりました。今回は、リンと老化の関係をお話したいと思います。リンは砂糖や食塩と違い、味がありませんから、1日どれだけ摂取しているか気づいている方は少ないと思います。実は現代人の私たち、無意識にリンを過剰摂取しているのですよ。カルシウムが体に大切って聞いたことありますよね。それでは、リンはいかがですか?リンは、カルシウムの次に体内に多く存在するミネラルで、私たちの生体内で重要な役割を果たしています。
リンは、約80%がカルシウムと結合し、骨や歯の成分となっています。残りは、細胞膜やDNAやRNAといった核酸の構成成分となり、すべでの細胞に存在します。また、エネルギー源となるATPの成分でもあり、エネルギー伝達に必要で、さらに糖や脂質代謝にも極めて重要な役割を担っています。従って、リン不足は、骨軟化症、歯周病や筋肉低下などを引き起こします。実際、リンは多くの食品に含まれているので、不足することはまれであり、むしろ過剰摂取が問題となってきています。
それでは、どんな食品にリンは含まれているのでしょうか。私たちは、2種類のリンを食品から摂取しています。一つ目は、植物性、動物性タンパク質と結合している有機リンです。二つ目は、食品添加物として加工食品、ファーストフード、インスタント食品、調味料、清涼飲料水やお菓子などに含まれている、タンパク質と結合していない無機リン酸です。具体的には、ハムやソーセージなどの食肉製品には、保存性、色や風味をよくするための結着剤として、ラーメン、インスタント麺などにはかんすいとして、コシや色調をよくするためにリン酸塩が混ざっています。また、瓶詰、缶詰には防腐剤としてリン酸塩が添加され、清涼飲料水には、酸味料としてリン酸塩を用いることが多いです。
成人1日に必用なリン摂取量は約1,000mgです。有機リンを含んだタンパク質を摂取することで、十分リンも摂取できています。ところが最近は、無機リン酸の摂取が増加し過剰摂取となるのです。リンは小腸で吸収されますが、有機リンと無機リン酸は、体のリンの吸収効率が違うのです。植物性有機リンの吸収率は20―50%、動物性有機リンの吸収率は40―60%といわれていますが、無機リン酸は100%吸収されます。従って、私たちはリン過剰摂取になるのです。残念なことは、食品添加物は、条件によっては表示義務がないため、実際私たちのリン摂取量が明確にわからないのです。2009年の国民健康栄養調査では、日本人リン摂取量は、男性は平均1,043mg、女性は平均908mgと報告されています。ただし、この調査では食品添加物のリンの量は加算されていませんので、実際のリン摂取量はこれより多いと思います。1990年初頭、平均的なアメリカ人は食品添加物から1日約500mgのリンを摂取していたと言われていますが、最近は1日約1,000mg摂取しているといわれています。この原因は、食文化の変化、つまり加工食品、缶詰、清涼飲料水やファーストフードの摂取量が増えたためと指摘されています(参考文献3)。
リンの約60%は腎臓から尿として、残りは腸から便として排泄されます。そのため血清リンの正常値は、2.5〜4.5 mg/dLの正常範囲で維持されています。腎機能が障害されるとリンの尿中への排泄が低下し、高リン血症を認めます。末期腎不全では血清リン酸値の上昇に伴い、心血管疾患発症リスクの増大も報告されています。ところが最近、腎臓病患者だけでなく、健常者においても、血清リン酸の濃度と心血管疾患発症リスクの関係が報告されました(参考文献4)。従って、リン過剰摂取による健康への害が懸念され始めたのです。では、リンを過剰摂取すると何が起こるのでしょうか?以前から、リンを過剰に摂取すると、高リン酸がカルシウムの吸収を阻害し、骨からカルシウムを流出させ、骨密度が低下し、骨粗鬆症の原因になることは考えられています。最近、私たちは高リン酸が老化を促すことを発見したのです。テキサス大学の黒尾誠教授と京都大学鍋島陽一名誉教授が発見したKlotho遺伝子は、抗老化遺伝子として注目されています。Klotho遺伝子を欠損したマウスは短命であり、皮膚、性殖器や筋肉の萎縮、肺気腫、骨異常、大動脈や全身の石灰化など、様々な早発性老化を認めます。Klotho遺伝子を欠損したマウスは、血清のリン酸値が非常に高く、私たちはこの高リン酸が老化の原因と考えました。そこで、このマウスに遺伝子操作や食事療法を行い、リン酸値を正常化させました。驚くことに、このマウスの早期老化様病変がほとんど改善したのです(参考文献1、 2)。次に、高リン酸の食事を与えると、老化様病変が元に戻りました。従って、リンの過剰摂取は老化を促進することが考えられます。忙しくて、ついついファーストフードや加工食品に頼りがちな私たちの食生活ですが、この話をきっかけに、自然の食材を使ってお料理をしてみましょう。
[参考文献]1) Dietary and genetic evidence for phosphate toxicity accelerating mammalian aging. Ohnishi M, Razzaque MS. FASEB J. 2010;24(9):3562-71.?2) In vivo genetic evidence for suppressing vascular and soft-tissue calcification through the reduction of serum phosphate levels, even in the presence of high serum calcium and 1,25-dihydroxyvitamin d levels. Ohnishi M et al. Circ Cardiovasc Genet. 2009;2(6):583-90.?3) Phosphate additives in food--a health risk. Ritz E et al, Dtsch Arztebl Int. 2012;109(4):49-55?4) Phosphate - the silent stealthy cardiorenal culprit in all stages of chronic kidney disease: a systematic review. Kanbay M et al. Blood Purif. 2009;27(2):220―30.

2012年7月31日 提供:DentWave.com