脳に関する成分の研究2つ東大と金沢大
 

脳 神経発達、GABA作用 統合失調症・自閉症、原因解明に期待

 脳の神経回路の発達を制御する物質を、東京大のチームが動物実験で突き止めた。神経回路の発達異常は、統合失調症や自閉症との関係が指摘されており、原因解明につながる可能性がある。成果は米科学誌「ニューロン」に掲載された。

 脳では神経細胞同士が結合し、回路を作って情報を処理している。出生直後は神経細胞の結合部にあたる「シナプス」が過剰に存在するが、人は生後8カ月〜10歳ごろに不要なシナプスを除去する「刈り込み」が行われ、必要なシナプスだけが残る。統合失調症や自閉症は、刈り込みが適切に行われないことが原因とみられている。

 東京大の狩野方伸(かのうまさのぶ)教授(神経生理学)らは、神経細胞の活動を抑制する効果が知られる神経伝達物質のGABA(ギャバ)に注目。脳内でGABAを作りにくいよう遺伝子改変したマウスを使って、小脳の神経回路のでき方を調べた。

 生後9日ごろまでは刈り込みが正常に起きるが、10〜16日ごろに低下し、特定部位のシナプスの数は正常マウスの2倍以上だった。この時期は人間の2歳ごろに当たる。別のマウスは生後10日にGABAの働きを強める薬を与えると、刈り込みは正常に起きた。このことから、GABAは発達過程の適切な時期に脳内で働いて神経細胞の刈り込みを制御し、神経回路を健全な状態にすると結論付けた。

 GABAはアミノ酸の一種で動植物に広く含まれるが、GABAを含む食品は脳には吸収されないため、摂取しても刈り込みを制御する効果はない。狩野教授は「人に同じ仕組みがあるとすれば、適切な時期にGABAの働きを強める投薬などで、神経回路の発達異常を軽減できる可能性がある」と話す。【久野華代】

2012年5月1日 提供:毎日新聞社
                      

脳内ホルモン「オキシトシン」、自閉症の改善に期待 
金沢大研究グループ発表

 金沢大の研究グループが26日、自閉症の症状改善に効果があるとされる脳内ホルモン「オキシトシン」が、自閉症の人に多い考え方や感じ方をする人に対し、効果があることを脳内の反応で確認したと発表した。同大附属病院の廣澤徹助教(脳情報病態学)は、「自閉症の人のうち、どんな性格の人に効果があるかが分かった。自閉症に起因する精神疾患などの治療にも役立てたい」と話している。

 オキシトシンは出産時に大量に分泌され、子宮収縮などに作用し、陣痛促進剤などに使われる。近年、他者を認識したり、愛着を感じるなどの心の働きに関連するとの研究報告も出ている。

 研究グループは、20〜46歳のいずれも男性の被験者20人に「喜び」「怒り」「無表情」「あいまいな表情」の4種の表情をした37人の顔写真を提示。全員にオキシトシンを鼻の中へ吹きかけ、投与の前後で写真の人物の表情を見た時の脳の反応を、脳神経の活動を示す、脳内の磁場の変動を計る脳磁計で調べた。

 オキシトシンの投与前には、怒っている人の顔を見た時、脳内に被験者全員が敵意を感じたことを示す反応がみられた。投与後は、敵意を感じた人と、あまり感じなくなった人とに分かれた。敵意を感じなくなった人たちは、心理学のテストで「理屈っぽく、物事をあいまいにせず、突き詰めて考えないと気が済まない傾向がある」とされた人たちだった。自閉症の人にはこのような傾向が強いという。

 研究成果は、同日に英科学誌サイエンティフィック・リポーツ電子版で公開された。廣澤助教は、「オキシトシンの働きを生かし、新薬や治療法の開発などに役立てたい」と話している。【横田美晴】

2012年4月27日 提供:毎日新聞社