乳酸菌とビフィズス菌 免疫力アップ、
花粉症改善 アンチエージングも

 

働き者の乳酸菌とビフィズス菌 
免疫力アップ、花粉症改善 アンチエージングにも期待

特集ワイド:働き者の乳酸菌とビフィズス菌 免疫力アップ、花粉症改善 アンチエージングにも期待

 ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌やビフィズス菌への視線が熱い。というのもインフルエンザの予防や、花粉症の緩和につながる可能性を示す研究報告が相次いでいるからだ。腸内で活躍する「ミクロの働き者」たちの新たなパワーを探った。【宮田哲】

 色とりどりのパッケージが並ぶ棚の前に立っただけで、おなかの調子がよくなるように感じるのは気のせいか。訪れたのは、東京都板橋区のスーパー、マルエツ板橋駅前店のヨーグルト売り場。

 「整腸作用があり、アレルギーにも良いと聞くので、子供のためによく買っていますよ」。パートの女性(33)が言う。一方「震災で品薄になって以来、我が家は手作り。牛乳に市販のヨーグルトを混ぜて発酵させるんです」と教えてくれたのは、近くに住む主婦(69)だ。「特にいいのは免疫力がアップすることですね」。そう言って手にしたのは、赤いパッケージ。この冬の「ヨーグルトブーム」に火を付けたとされる、明治の商品「R―1」だ。

 きっかけは一つの報告だった。佐賀県有田町の伊万里有田共立病院の調査では、2010年から11年にかけての半年間、町内の全小中学生約1900人に学校給食で「R―1」のドリンクタイプを毎日飲ませたところ、インフルエンザの感染率が小学生0・64%、中学生0・31%と、県全体や周辺自治体に比べ格段に低かった――というのだ。

 テレビの情報番組でこのデータが紹介されると、スーパーに「R―1」を求める客が殺到し、品薄になって棚が空になるという事態に。

 ヨーグルト全体の売り上げも好調だ。マルエツは首都圏に約260店を展開するが、2月の売り上げはプレーンタイプで前年より35%伸びた。

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 「乳酸菌とは、牛乳などに含まれる糖を分解し、大量に乳酸を生み出す細菌の総称なのです。あの酸味は乳酸などによるものですが、菌自体は無味無臭ですね」。そう話すのは「ヨーグルトの科学」などの著書がある信州大名誉教授の細野明義さんだ。一方のビフィズス菌は学問的には乳酸菌とは別種とされ、乳酸に加えて酢酸も作るという。

 ヨーグルトによって便秘が改善することは広く知られているが、これは乳酸が腸を刺激し、ぜん動運動を活発にするからだ。

 ここで、乳酸菌などの「仕事場」である腸内の環境についておさらいしよう。
 私たちの腸の中には、100兆個以上もの細菌がひしめき、体に良い「善玉菌」、有害な「悪玉菌」、どちらにもなる「日和見菌」という三つのグループに分かれる。悪玉菌が増えると発がん性物質や毒素ができるため、人体もこれを警戒し、全ての免疫担当細胞の約70%を腸の周囲に配しているほどだ。

 善玉菌の乳酸菌やビフィズス菌をとれば、悪玉菌を抑制する働きがあるとされるが、近年は、それらのパワーを裏付けるデータが次々に報告されているのだ。

 例えば、重要な免疫細胞の一つで、がん細胞やウイルス感染した細胞を破壊する役を担う「ナチュラルキラー(NK)細胞」への影響だ。先に紹介した「R―1」には1073R―1という乳酸菌が含まれているが、この菌入りのヨーグルトを食べると、NK細胞の働きの度合いを示す「NK活性」の値が上昇したとの報告がある。乳酸菌シロタ株の入ったヤクルトの製品の試験でも、やはり上がった。

 ならば、免疫バランスが崩れることによって起きるアレルギーに対してはどうか。森永乳業の研究で、花粉症の患者にビフィズス菌BB536の粉末を13週間飲み続けてもらったところ、鼻水、鼻づまりなどの自覚症状が改善されたという。乳酸菌でも同様の効果が報告されている。

 細野さんによると、乳酸菌には発がん性物質を吸着する働きもあるそうだ。「乳酸菌の細胞壁に発がん性物質がどんどんくっつくのです。菌はそのまま排せつされるから、おなかの中がきれいになる。しかも、その吸着力は、腸に届く前に胃酸などで死んでしまった乳酸菌にも残っていることが分かっています」

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 アンチエージング(老化予防)との“接点”も浮かび上がってきた。

 協同乳業や京都大などが、人間の30〜35歳に当たる生後10カ月のマウス20匹に、ビフィズス菌LKM512を週3回投与し、生存率が75%に低下するまでの期間を調べた。その結果、食塩水を与えた群では投与18週目、生後1年3カ月だったのに対し、LKM512を与えた群は投与45週目、生後1年10カ月だった。「この半年の伸びは、マウスの平均寿命(約2年)の4分の1の効果があった計算になります」。協同乳業研究所の松本光晴主任研究員は言う。

 そこには、DNAの安定化や細胞増殖などに関係する生理活性物質「ポリアミン」が関係していると、松本さんらはみる。「ポリアミンは生命活動そのものに関わる物質。LKM512を投与したマウスは、大腸内でポリアミン濃度が上昇していました」

 こうしたデータは、あくまで限定的な条件下や動物実験によるものだが、今後に期待を抱かせることは確かだ。

 ◇おいしく楽しい伝統のぬか漬け

 日本の「伝統料理」にも乳酸菌は生かされている。

 「コンニャクですけど」

 「カボチャです」

 「これはエリンギです」

 東京都三鷹市で10日にあった「ぬか漬けマラソン」という名の講習会。まるでシルクハットからハトを飛び立たせるマジシャンのように、先生の世田谷区の主婦、岡部奈尾江さん(39)が小さな容器から大ぶりな野菜たちをゴロンゴロンと取り出す。その手元を見詰める約30人の男女からどよめきの声が上がった。

 岡部さんは、母の作るぬか漬けが大好きだった。自分でも漬けるようになり、幼い息子の友達に出せば、どんどん食べてくれる。その母親たちに頼まれ、約3年前から講習会を開くように。この日は多摩地区の市民講座「東京にしがわ大学」に招かれた。

 ぬかには、整腸作用のある乳酸菌がたっぷり含まれている。そのぬかのうまみを吸った野菜はこくがあって、さわやかな酸味が口中に広がる。ぬか漬けの作り方を指導した岡部さんは、こうあいさつした。「ぬか漬けっておいしくて、楽しくって、体にいい。いいことずくめです」

 確かに、そうだ。「うまいなあ」と喜びながら乳酸菌を取り込めているのだから。

 「東日本大震災後、免疫力を上げるために発酵食品への関心が高まっていると感じています。私自身、旅行などで2、3週間食べないと、お肌の調子が悪くなる。ぬか漬けの力を実感します」

 体の中で働いてくれていると思えば、いとしさも増す。ヨーグルトやぬか漬けを食べた後は、そっとおなかをなでてあげようか――。

2012年3月15日 提供:毎日新聞社