体内時計守るのが決めて

「よく寝たのにまだ眠い」「なかなか寝付けない」。眠りを巡る悩みは多い。厚生労働省の研究班が作成した「睡眠障害の予防のための指針(案)」をもとにうまく眠るコツを探った。

睡眠には、太陽光と各人の体内時計が密接に関係している。厚生省研究班の班長をつとめる国立精神・神経センター精神保健研究所の内山真精神生理部長は次のように説明する。

人間の体は朝起きた時に太陽光を浴びると、朝であることを感知し、その14時間くらい後から眠くなるホルモンを分泌し始める。さらにその2時間後。つまり、朝7時に起きれば、午後11時には眠くなる計算だ。時々徹夜ができるのは体が緊張しているからで、その分は睡眠不足となる。

休みの日にたまたま正午まで眠ってしまった場合、寝つきは通常より1時間程遅くなる。5時間長く眠ったからといって、眠気も5時間遅く訪れるわけではない。体内時計が生活リズムを覚えているからだ。

徹夜に備えて事前に寝だめをしようとしてもあまり意味はない。「睡眠は後払いはできるが、前払いはできない」との原則があり、睡眠不足は休みの日に取り返すしかない。

こうした睡眠のメカニズムを頭に入れた上で12カ条の指針案を見てみよう。

まず、第1、3、8条。「1日8時間は眠らなければ」と思い込む必要はない。必要な睡眠時間は各人各様。年をとると睡眠は短くなる。働き盛りの成人では、平日は7時間程度の睡眠で事足りることが多い。

睡眠障害の予防のための指針(案)

第1条
昼間に眠気を感じないなら睡眠は十分
第2条
眠る前は刺激物を避け、リラックス
第3条

就床時刻にこだわりすぎない

第4条

同じ時刻に毎日起床

第5条
光の利用でよい睡眠
第6条
規則的な3度の食事と運動習慣
第7条
昼寝は午後3時前の20〜30分
第8条
眠りが浅ければ睡眠時間を減らす
第9条
激しいいびき、呼吸停止などは要注意
第10条
十分眠っても日中眠気が強ければ専門医に
第11条
睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
第12条
睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
注)厚生労働省研究班作成。
2002年に正式決定の見込み。

無理に眠ろうと意気込むと、かえって頭がさえ、眠れない。就寝時間にこだわらず、眠る時間だけ床につくようにすれば、熟睡感が出る。

第2条。風呂はぬるめに。熱すぎると血圧が上がり、目が覚めてしまう。寝る4時間前からコーヒーやチョコレートなどのカフェインをとらない。就寝1時間前の喫煙も避ける。

第4、5条。土曜の寝坊は多めにみるとしても、日曜は平日と同じ時刻に起き、太陽光を浴びること。まだ眠かったら、その後、また寝ればいい。

土日と続けて朝寝をすると、普段と同じに太陽光を浴びないため、体内時計が狂い、月曜の朝がつらくなる。また、本が読める程度よりも明るい照明をつけたままで眠ると、体内時計に影響が出る。

第6条。遅い時間に食べ過ぎると、消化が不十分なうちに寝ることになり、よくない。適度な運動で深い睡眠が得られる。

第7条。夕方以降に昼寝すると、夜の睡眠に悪影響が出る。

第9、10条。大きないびきは、睡眠時無呼吸症候群の症状かもしれない。睡眠中に呼吸が一時止まる病気で、日中睡魔に襲われ、居眠り運転などの事故にもつながる。日本には患者が潜在的に200万〜300万人いるといわれる。

治療を受けていない人が多いが、虎の門病院呼吸器科の成井浩司医師は「昔と違い、今は一晩で症状を診断し、治療法を決められる」と早期治療をすすめる。睡眠時着用するマスクを通じて空気を送り込む「持続陽圧呼吸治療(CPAP)」が一般的な治療法で、「治療機も小型で音が静かになっている」という。

第11、12条。睡眠薬代わりに酒を飲むと、慣れが生じ、酒量を増やさないと眠れなくなる。酒より睡眠薬の方が癖になりにくいという見方もある。

睡眠中は体や脳が休息をとるだけでなく、体に大切なことが数多く起こる。

「寝る子は育つ」の言葉通り、成長ホルモンは睡眠中に出る。昼間できた傷が修復され、肌がきれいに保たれる。免疫力が高まり、細菌が退治される。よく眠ることは健康や美容の基本なのである。

くよくよ悩まず、体の求めに応じて眠り、朝は決まった時間に起き、太陽光をいっぱいに浴びる。こうして豊かな一日が始まる。

 

(2001.12.22 日本経済新聞)