トランス脂肪酸使用減少 洋食に多く、心疾患の原因/
原料シフト「飽和」は増加

 

 取りすぎると心疾患のリスクが高くなるといわれるトランス脂肪酸の健康影響評価を、内閣府・食品安全委員会がまとめた。海外で表示を義務化する動きのあるトランス脂肪酸の含有量は大幅に減ったが、飽和脂肪酸が増えていることが分かった。脂肪の取り過ぎに引き続き注意することが大切だ。【小島正美】

 トランス脂肪酸はパイや菓子パン、ケーキ、カレールーなどに多く含まれる。和食や中華に比べ、ピザ、ハンバーガーなど洋食に多い。多く摂取すると悪玉コレステロールを増やして善玉コレステロールを減らし、心筋梗塞(こうそく)など心疾患が増えることが分かっている。WHO(世界保健機関)は03年、トランス脂肪酸の摂取量が総エネルギー摂取量の1%未満になるよう勧告した。

 消費者の関心の高まりから、企業はトランス脂肪酸の低減を進めている。食品安全委が昨年、マーガリンやショートニングなど30品目を調べたところ、06年度の40品目に比べ19〜95%減少。特に業務用ショートニングで9割前後も減った。

 この結果、ショートニングをよく使う外食産業でも低減化が著しい。4年前から取り組むミスタードーナツではドーナツ1個当たりのトランス脂肪酸の含有量は約1〜1・5グラムから0・25グラムになった。日本ケンタッキー・フライド・チキンも過去5年間でチキンでの含有量を16分の1に減らした。

 そもそも日本人のトランス脂肪酸の摂取量は多くない。食品安全委が国民健康・栄養調査(03〜07年)で約3万2400人を解析したところ、1日の平均摂取量は約0・67グラム。エネルギー比は平均0・31%だった。トランス脂肪酸をよく取る上位5%のグループで摂取比率を推定すると、15〜29歳の層で約0・8%前後と高かった。ケーキ類を好む女子大生など若い層では1%を超えるケースがあった。

 とはいえ、脂肪分の多い食事を取る欧米とは比べものにならない。米国1・9〜2・6%、英国1・2〜2・2%、フランス1・1〜1・2%、ドイツ0・8〜0・9%と、日本の3〜8倍程度にあたる。

 食品安全委の山添康・新開発食品専門調査会座長(東北大教授)は「日本人は平均的には問題ないレベルだが、男女とも15〜29歳の層は比較的高い。洋菓子類の食べ過ぎには注意が必要だ」と話す。

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 新たな懸念は、飽和脂肪酸が増えたことだ。マーガリンやショートニングに含まれる飽和脂肪酸を調べると、業務用ショートニングでは、06年に比べ約2倍になっていた。トランス脂肪酸は含まないが飽和脂肪酸の多いパーム油が原料として多く使われるようになったからだ。大手のミヨシ油脂も「パーム油への切り替えが主な要因」とみる。トランス脂肪酸の削減を求める消費者の声を受けた流通業者の要望で、企業が原料を見直しているのだという。

 飽和脂肪酸も洋菓子や揚げ物、肉類に多く含まれ、動脈硬化の原因になる。島崎弘幸・人間総合科学大教授は「トランス脂肪酸だけではなく、脂肪全体の取り過ぎに注意しないと糖尿病や肥満の原因になる」と話す。油脂の研究で知られる菅野道広・九州大学名誉教授も「トランス脂肪酸による日本人の心疾患リスクは小さい。各種栄養素をバランスよく食べることが健康維持の原点だ」と強調する。

 原料シフトで別の気がかりも生まれている。「パーム油への需要が高まると熱帯雨林が伐採され、生物多様性が失われる」。丸山武紀・日本食品油脂検査協会理事長は懸念する。食品の確保と生態系への配慮との両立が課題となりそうだ。

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 ◇トランス脂肪酸

 一般に植物油は常温で液体だが、水素を添加して加工するとマーガリンのように固形(硬化油)になる。この加工時にトランス脂肪酸ができる。乳製品や肉にも含まれる。硬化油を使った洋菓子や揚げ物は、さくさくした食感が出る。米国、カナダ、韓国などは食品中の含有量の表示を義務化。英国、豪州は「飽和脂肪酸の削減が優先する」として規制していない。日本の消費者庁は表示を義務化するか検討中だ。

2011年12月2日 提供:毎日新聞社