今でも結核はよくある感染症、乾いたせきが続く?

「もしかして・・・結核?」というケースに出合ったら

平成23年度 結核予防会結核研究所 
結核対策合同アドヴァンスコース受講生有志
(編集担当:北里大学医学部公衆衛生学講師 和田耕治)

第2回 結核の検査と治療

前回は結核の疫学について簡単にご紹介しました。今回は、日常的に結核対策に従事している保健所医師から臨床現場に向けて、「もしかして・・・結核?」というケースに出合ったときに診断のヒントとなるポイントをまとめます。

はじめに、今回取り上げる結核の診断の遅れについて、第1回と同様に、100人の新規結核患者さんの状況を紹介します。

100人の新規結核患者さんがいたときに、発症から診断まで3カ月以上かかってしまった人(受診の遅れand/or診断の遅れ)は18人でした。一方、初診から診断まで1カ月以上かかってしまった人(診断の遅れ)は、20人いました。

これらのデータは、都道府県・政令都市別にも分析され、結核予防会結核研究所の疫学情報センターのホームページに、結核管理図という名前で掲載されています。さらに細かく保健所別に分析されたデータは、各組織へフィードバックされ、地域での結核対策に役立てられています。

1)結核を疑う
「長引く咳には要注意」のキャッチフレーズの通り、「治らない風邪」のように、通常の風邪への対応で軽快しないケースは、実は「結核」かもしれません。またそうした方は複数の医療機関を受診されることがあります。経過の長い「風邪」など、「なにか変だぞ」と感じるときには積極的に「結核」を疑ってみてはいかがでしょうか。X線写真、喀痰検査などで鑑別できます。

高齢者の場合、咳・痰の呼吸器症状が自他覚的に明らかでないことが多いため、注意が必要です。我慢強い方もおいでですし、本人は「咳や痰はありません」と言うものの、話を聞いているうちに、「ゲホッ」という咳払いをしたり、痰の引っかかりがある方がいます。

さらに、高齢者では、胸部X線写真上も空洞等の顕著な所見が認められない場合もあるので要注意です。咳・痰以外には、37〜38度台の微熱が続く、食欲低下、元気がない、という全身の消耗・衰弱を示す状態が結核診断の参考になります。

2)検査を実施する上での注意点
a)X線検査
胸部X線写真を撮ったにもかかわらず、結核所見が見逃されていることもあります。空洞性病変があっても結核が疑われていなかったり、排菌が確認できていないことを根拠に結核ではないと判断されていたりすることもあります。過去のX線写真との比較読影を行ったり、近隣の結核診療施設や医師に相談してみてはいかがでしょう。保健所に相談いただいてもいいと思います。

また、結核の発病初期には、胸部単純X線で異常所見が認められなくても、臨床上強く疑えば、胸部CTによる評価も意義があると考えられています。近隣の結核診療施設や医師に早めに相談・紹介するのも一策です。

b)結核菌検査
結核を疑い精密検査に進む場合、初回の結核菌検査は、表1のように塗抹検査、培養検査、PCR検査をオーダーしましょう。

表1 初回の結核菌検査の項目の例

・塗抹検査:抗酸菌の存在を確認するとともに、排菌の量は感染性の目安となります。
・培養検査:時間がかかりますが、菌の生死や同定、そして治療上重要な薬剤感受性の情報が得られます。
・PCR検査:結核菌群か非結核性の抗酸菌か、という菌の同定ができます。

すぐ結果が出る塗抹検査に比べて、最長で8週後に結果が判明する培養検査は、結果の把握や評価がされないことがあります。培養検査の結果は、出てきた菌が生きている(つまり感染性がある)かどうかの指標です。治療に役立つ情報だけでなく、感染性という感染拡大防止のために非常に有用な情報ですので、保健所からも改めて問い合わせをさせていただくことがあります。

PCR検査は、わずか数時間で菌の検出が可能で(外注でも4日間程度です)、培養に時間のかかる結核菌には非常に有効な検査です。また、塗抹検査と違って、結核菌と非結核性の抗酸菌との区別も可能です。ただし、精度が100%というわけではなく、菌の量が少なければ陰性になります。また、陽性の場合も、菌の生死や量(感染性)は分かりませんので、治療開始後などは結果の解釈に注意が必要です。3つの検査の長所をうまく組み合わせて判定にお役立てください。

培養陽性だった場合は、菌同定に引き続き、近年課題となっている耐性菌である可能性も想定して、薬剤感受性検査も実施します。薬剤感受性検査の結果は、患者さんの治療方法の決定だけでなく、接触者健診で判明する潜在性結核感染症を治療する際に、非常に重要な情報となります。例えば、患者さんから検出された結核菌がイソニアジド(INH)に耐性だと判明すると、接触者の潜在性結核菌感染症の予防内服に用いる使用薬剤の選択にも影響します。患者さんが診療中に亡くなられてしまった場合でも、排菌が判明すれば接触者健診は行われる場合がありますので、菌検査を行う際には、薬剤感受性を含めて結核菌検査のオーダーをぜひ行ってください。前述のコホート検討では、100人の肺結核患者のうち、25人は培養検査結果 が把握されていませんでした。

なお、1回の喀痰検査で陰性が出ると安心してしまいますが、排菌の否定には「3連続検痰」の実施が原則となります。気になる、悩ましい、などのケースであれば近隣の結核診療施設や医師に早めに相談・紹介するのもよいでしょう。

検体採取に問題があり偽陽性となったケースも
喀痰検査では、きちんと検体を採取できていないケースもあります。例として、偽陽性のケースを示します。ある医師が、寝たきりの患者さんに対して吸引痰塗抹検査を行ったところ、陽性と出たので、結核の発生届を提出されました。その後の培養検査で、非結核性抗酸菌と判明し、結核としての登録は解除になりました。ところが、担当医に確認したところ、実は痰の採取の際に、検体をいったん吸引壷に落とし込んでから塗抹検査に出したことが判明。その他の検査の結果から、最終的には検体の汚染(コンタミ)によって誤って陽性となった(結核、非結核性抗酸菌症のいずれも発病していなかった)と判断されました。

喀痰の採取は難しいかもしれませんが、結核を疑う場合は、検体確保のご協力をぜひともお願いします。近隣で結核診療を担う中核機関に早めに相談・紹介をされてもよいでしょう。地域での体制や資源によりますが、保健所にご相談いただくと、中核機関との調整や連携など、なにかお手伝いできることがあるかもしれません。

c) クォンティフェロン(QFT)
QFTは、血液中の細胞が、結核菌の細胞成分に反応する(インターフェロンγを放出する)かどうか、を指標として結核菌の感染の有無を判定する検査です。ツベルクリン反応はそれを総合的に皮膚の反応として判断していたわけですが、ツ反はBCG接種の影響を受けるのが最大の欠点です(既接種者のツ反による結核感染の診断精度は低いことが分かっています)。一方、QFTはBCGの影響を受けません。

成人に対して、QFT検査を実施せず、ツ反の陽性のみで潜在性結核感染症と診断されている場合がありますが、QFT検査で判断されることをお勧めします。特に、呼吸器科や感染症科など結核診療を専門に行っている診療科ではなく、他科で患者さんの結核発病リスクを評価する場合に、しばしばツ反のみで判定している事例がありますのでご注意ください。

また、最近は第三世代の「クォンティフェロン(R) TB ゴールド(QFT-3G)」という検査が主流になって、採血後の手順や流れ(振り方や検体管理など)が変わり、手間も増えています。そのことが結果に影響を及ぼすことがありますので、検査実施機関にご確認いただくか、検査に関するメーカー資料を参考にしていただければと思います。

ちなみに、2011年7月にWHOが「インドや中国などで行われている結核の血液検査は誤判定が多く、有用でない」と発表したことがニュースとなりましたが、QFT検査のことではないのでご注意を。

3)治療
結核患者の治療については、日本結核病学会から結核診療ガイドライン(南江堂)が示されています。

副作用への対応、増加する耐性菌への対応、基礎疾患の有無に基づく服薬期間の検討、など、専門的な対応が必要となる場合がありますので、結核診療にかかわる医師は後方支援体制を確認しておくか、あるいは専門機関へ早めに紹介することが重要です。

残念ながら、医師の中には独自の理論と実践をもって結核治療をされる方もいます(下表)。その場合は当然公費申請はなく、保険診療をされている様子です。

例1:頸部リンパ節結核で、内服をやめると再腫大するので治療を継続している。呼吸器症状なく、肺結核合併もなく、患部からも菌は検出されていない。

例2:「結核は一生治療しなければいけない。保健所からいろいろ言われる筋合いはない」と言って、INHを延々と処方する。


結核の治療は、これまでの経験や議論から、「標準治療」という一定の枠組みが定まっています。しかしながら、前出のコホート研究では、100人の新規結核患者さんのうち、最初の2カ月間に、イソニアジド、リファンピシン、ストレプトマイシンまたはエタンブトール、ピラジナミドの 4剤による標準治療が行われていたのは、77人にとどまりました。副作用の問題、また、菌耐性化の問題などがありますので、標準治療への準拠をお願いいたします。そこから外れざるを得ない場合は、公費申請をしない場合であっても、保健所を通じて結核審査会関係者に意見を求めることも可能な場合があります。ぜひ保健所にもご相談ください。
 
4)結核に向き合う:「正しい知識で正しく恐れる」
これも残念な話ですが、昨今の歴史もののドラマの影響もあってか、世間には結核への無用の恐怖があるようです。これは医療関係者にも広がっており、「結核かもしれない」という患者の訴えだけで、診療拒否をする医療機関も少なくありません。結核治療が終了するまでは患者の入院を引き受けないという療養型の医療機関もあります。また、予防内服中のお子さん、それ以前に接触者健診としてツベルクリン反応テストを受けるお子さんに対して、出席(登園)停止を求める学校・幼稚園・保育施設もあります。

最近よく聞かれる「正しい知識で正しく恐れる」ではありませんが、結核に関連した検査や服薬については、感染リスクを冷静に評価して対応いただくとともに、地域での正しい結核の知識の普及にご協力いただきますようお願いいたします。

2011年9月1日 提供:日経メディカルオンライン