AUTOWORKS 2005.6月号掲載


国産部品を多用してNOSも噴く
モーティク制御の500SL
スーパーチャージャーを後付けするようなベンツ500SLはいても、国産パーツを多用してワンスロットル化し、おまけにNOSまで噴いているアメリカンな500SLは、おそらくこの1台だけに違いない。
まるでベンツをベンツと思っていないような、脳天までシビレてくるほどオニ加速する堤500SLを紹介しよう。
 
ソフトトップをかぶせた堤500SLのリアビュー。
まさかNOSを噴クベンツだとは誰も気がつかないだろう。
 
リアにはロリンザのエンプレムが見えるが、
中身ははるかにすごい。
 

テールエンドから顔をのぞかせるマフラーは50デュアルのチタン製。

 
アメリカンな500SL!!
写真の車は91年式メルセデスベンツ500SLがベースになっている。
あまりなじみがない人もいると思うので念のために言っておくと、ベツンは排気量を車名に取り入れているケースが多く、500SLなら排気量は5・、S600なら排気量が6・ということになる。また、SLシリーズはオープンボディのスポーツカーを指しているけど、大半のオーナーはSLでサーキットを走ろうとか、レースに参加しようとは思わないほどラグジュアリー志向の強いモデルだ。
いわば大排気量にモノをいわせて比較的低い回転域から太いトルクを立ち上げ、2トン近い重量ボディをシッカリとした足で運んでいくといったイメージかもしれない。そういうこともあって、外観に手を加えたり、車高を落としたりして雰囲気を楽しんでいるSLが非常に多いのが実際だろう。
ところが、この写真の500SLのオーナー・堤さんはそれでは満足できず、オニのように加速するSLをめざしてしまった。パワーアップする方法としては、スーパーチャージャーを後付けしたりするやり方をよく見掛けるけど、堤500SLの場合はそんなありきたりな手段を使ってはいない。国産パーツを多用してワンスロットル化し、モーテツクで制御。さらには、なんとNOSまで噴いているのだ。日本にはいろんな仕様のベンツがあるといっても、ベンツをベンツと思っていないような、NOSを噴くアメリカンな500SLはこの車だけじゃないだろうか。
エアクリーナーBOXを外すとワンオフのシングルスロットルが出てくる。
 
タワーバーの下に見えるのがベンツマーク付きの黒い樹脂製エアクリーナーBOX。左右のエアダクトから空気を集める。エレメントはK&Nに変更。

点火系はS15シルビアのダイレクトイグニッションを移植。
燃料デリバリーはワンオフ製作した。

燃料レギュレーターは国産チューンドでおなじみのサード。燃料ポンプはボッシュ。
アイドリングを安定させるAACバルブはFD3S用を流用移植している。
 
シングルスロットルの入口にはNOSのノズルを取り付け、
メッシュホースでソレノイドバルブとつなげている。
インジュクターはR32GT・R純正の400ccを流用している。
 
右バンクに付けたクランク角センサーはニッサンのVH45用を移植したもの。台座を削り出しで製作し、クランク角センサー自体もベンツ500SLのV型に合わせて改造している。
 
堤500SLの室内。一見するとシートを変更してナビを付けた程度に思われがちだが、
助手席二一BOXにはモーテックがあったりする。
豪華なセンターコンソール。サードの強化オートマに変更する。 レカロSP-GNをツイン装着、ベルトはシンプソン。レールはワンオフ。 ベンツ純正のウッドハンドルを付けたラグジュアリーなコクピットまわり。
速度計は300キロ表示だ。

助手席側に装着されたモーテックM48。
これで燃料噴射や点火時期などをはじめ、NOSの噴射も制御している。

室内のラグジュアリーな雰囲気に合わせてオーディオ類も完備する。しかもオニのように加速するのがこの車の特徴だ。

世界で1台のSPL

クラセンやダイレクトイグニッションは
ニッサン車用
フロントフェンダーにはフレアが入り、まるでアメリカンな雰囲気になっている。こんな500SLはめったにいない。
堤500SLの中身について、もうちょっと細かいところまでみていこう
ボンネットを開けるとエンジンの上側にベンツマークが付いた黒い樹脂製のカバーみたいなものが見えるけど、これはエアクリーナーBOXだ。左右に伸びたパイプ状のエアダクトから空気を取り込み、このデカいエアクリーナーBOXに集めてから左右バンクに分配している。ちちなみにエレメントはK&S製を使っている。
で、このエアダクトやエアクリーナーBOXを外すと、ワンオフ製作したシングルスロットルが顔を出す。もともと500SLはKEジェトロで、こいつのエアフロはてんびん秤みたいなフラップ式だ。吸い込んだ空気がフラップに当たると、その量が多いほど下に押し下げられるからフラップの下がり量で吸入空気量を測るやり方をしてるんだけど、見るからに吸入抵抗になってて速く走るのには向いてないよね。
そこでこの純正エアフロを取っちゃって、エアフロレスにした。吸入空気量を圧力から計算するようなDジェトロにしたから別のC/Pが必要になって、フルコンのモーテックM48を使って制御してるわけだ。さらにアイドリングを安定させるために、FD3SのAACバルブを移植するといった面白いこともしている。
また、正確なクランク角がわからないと制御できないので、ニッサンのVH45のクランク角センサーを流用。台座を削り出しでワンオフ製作し、クランク角センサー自体も改造して使っている。これを付けたおかげで点火時期の設定も簡単にできるようになり、点火系はニッサンのS15のダイレクトイグニッションを移植。この制御もモーテックM48でやっている。
ピストンやコンロッド、クランクなど腰下は純正のままだが、ヘッド側ではポートを見直し、カムには特注のバーニア式のスプロケットを付けてバルブタイミングを調整している。このへんはシングルカムのL型でトラッグの日本最速記録を打ち立てたライジングならではの手の入れ方だろう。
また、吸入空気量が増えたから燃料系にも手を加え、インジェクターはR32GT-R純正の440ccを流用して噴射量を増量させている。燃料の吐出量や燃圧を確保するために燃料ポンプはボッシュのポンプに変更。燃料レギュレーターは、国産チューンドではおなじみのサードを装着し、ワンオフのデリバリーを作って燃料を送っている。
ところで、NOSを噴射させると純正ヘッドガスケットでは保たなくなって、ガスケット抜けを起こしたりするけれど、そうかといってメタルガスケットに変更しようと思っても、ベンツ純正はもとよりAMGにもメタルヘッドガスケットはない。そのため、特注でメタルヘッドガスケットを作って装着している。NOS噴射のタイミングと点火時期の変更などの制御にもモーテックわ使っている世界でただ1台の堤500SLだ。
 

ベンツをとことん楽しんでいる雰囲気が伝わる堤SL。

フロントブレーキは355ローターにF40
ブレンボキャリバーを装着、オニのような加速に対応させている。
 

19インチのホイールに装着したタイヤはミシュランのパイロットスポーツで、サイズはフロント235-35-19、リアが275-30-19。
 
リアブレーキはベンツの純正のブレンボキャリパー。
AUTOWORKS 2005.6月号掲載