Lesson92

大腸がんの死亡などにも影響



喫煙は大腸癌の罹患と死亡のリスクも高める
106件の観察研究のメタ分析の結果

喫煙は様々な癌のリスクを上昇させる。イタリアEuropean Institute of OncologyのEdoardo Botteri氏らは観察研究のメタ分析を行い、大腸癌の罹患および大腸癌死亡と喫煙の間にも強力な関係があることを見いだした。詳細は、JAMA誌2008年12月17日号に報告された。

 喫煙は、肺癌のほか、口腔、咽頭 喉頭、食道、胃、腎臓、膀胱、子宮頸部、膵臓などの癌のリスクを高めることが示されている。だが、大腸癌と喫煙の関係を調べた研究では、一貫した結果が得られていなかった。

 著者らは観察研究のメタ分析を行うことにより、喫煙が大腸癌リスクの上昇をもたらすかどうかを調べることにした。

 大腸癌罹患率と死亡率について考察した観察研究を、文献データベースから選出。それらの論文の引用文献についてもメタ分析の対象としての条件を満たすかどうかを検討し、最終的に121論文を分析対象とした。

 選出条件は以下の通り。

 (1)喫煙と関係する大腸癌リスクを推定するために必要な最低限の情報と有意性の指標(95%信頼区間、p値など)を含んでいる。
  (2)ケースコントロール研究またはコホート研究
  (3)独立した研究
  (4)一般集団を代表する人々からなり、喫煙と大腸癌リスクの関係に影響を与える可能性のある病気の患者を含まない集団を対象にしている。

 罹患率の分析に用いたのは106件の観察研究。1969年から2008年までに報告された研究で、31件が北米、39件が欧州、33件がアジア、3件がその他の地域で行われていた。

 大腸癌罹患者は3万9779人だった。

 調整したリスク推定値を記載していた論文と記載していない論文があった。後者については、掲載されているデータを基に著者らが未調整のリスク推定値を求めた。

 調整済みのリスク推定値を提供していた26件の研究では、喫煙歴あり群を喫煙歴なし群と比較した相対リスクのプール推定値は1.18(95%信頼区間1.11-1.25)だった。

 著者らが求めた未調整相対リスクは1.11(1.05-1.31)となったが、こちらは不均質性が高かった。

 調整相対リスクを報告していた研究の方が、均質性が高かったこと、バイアスが少なく信頼性が高いと考えられたことから、これ以降の主要な分析は調整済みのリスク推定値を提供していた26件の研究のみを対象とした。
プールした相対リスクは、現在の喫煙者と喫煙歴なし群を比べた場合には1.07(0.99-1.16)、過去の喫煙者と喫煙歴なし群を比べた場合には1.17(1.11-1.22)となった。

 現在の喫煙者においては、結腸癌に比べ直腸癌のリスクが有意に高かった(p=0.02)。

 大腸癌罹患と喫煙の間には統計学的に有意な用量反応関係が見られた。1日の喫煙本数が10本増えるごとに、リスクは7.8%(5.7%-10.0%)上昇した。10pack-years増加当たりのリスク上昇は4.4%(1.7%-7.2%)だった。

 喫煙期間とリスクの関係を調べたところ、リスク上昇傾向が認められるのは約10年を経過した時点で、統計学的有意性が見られるのは30年後からだった。

 19件のコホート研究が提供していたデータを用いて、大腸癌罹患の絶対リスクを計算した。喫煙者では10万人当たり年間65.5人、非喫煙者では54.7人で、差は10万人-年当たり10.8(7.9-13.6)だった。

 大腸癌死亡の分析の対象になったのは、1990年から2008年の間に報告された17件のコホート研究。7件は北米、3件は欧州、7件はアジアで行われていた。

 現在の喫煙者群と喫煙歴なし群を比較していた14件の研究についてデータをプールし、相対リスクを求めると、1.28(1.15-1.42)となった。

 過去の喫煙者と喫煙歴なし群を比較した場合には、相対リスクは1.23(1.14-1.32)。喫煙歴あり群と喫煙歴なし群を比較した15件の研究では、相対リスクは1.25(1.14-1.37)だった。

 喫煙は大腸癌死亡の絶対リスク上昇をもたらしていた、喫煙者では10万人当たり年間41.3人、非喫煙者では10万人当たり35.3人で、喫煙者の方が10万人-年当たり6.0人(4.2人-7.6)多かった。

 大腸癌罹患と同様に、結腸より直腸の癌による死亡が有意に多かった。

 喫煙量の増加と大腸癌死亡の間には直線的な関係が認められた。1日の喫煙本数が10本増加するごとに、死亡リスクは、現在の喫煙者で7.4%(5.7%-9.2%)、過去の喫煙者では10.6%(8.7%-12.5%)上昇した。喫煙期間については、10年増加当たり9.5%(5.5%-13.7%)上昇となった。

 喫煙は大腸癌の罹患と死亡に強力に関係していた。有意なリスク上昇が認められるまでに数十年を要することから、喫煙の害が顕在化する以前に追跡を中止した試験では、明らかな結果が得られなかった可能性がある、と著者らは述べている。
大西 淳子

(2009年1月9日 記事提供 日経メディカル)