Lesson47

受動喫煙の害、警察も訴えられる時代に
ある事件から



1月7日から東京のタクシーがほぼ全面禁煙となりましたが、この日の日刊スポーツで面白い訴訟の話を見付けました。このニュースは、警視庁の覆面パトカー車内に漂っていた、たばこの煙で健康被害と精神的苦痛を受けたとして、東京都杉並区の74歳の男性が都を相手に10万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたというものです。

訴状によると、個人タクシー運転手の安井幸一さんは、昨年3月8日午前1時45分ごろ、葛飾区内の国道6号線を走行中に、速度違反の疑いで覆面パトカー内で警視庁の巡査部長ら2人から事情聴取を受けました。その際、車内にはたばこの煙が充満していて、安井さんはのどに痛みを感じてせき込み、狭心症の発作の兆候と見られる胸の圧迫感を生じ、急きょニトログリセリンを服用しなければならなかったといいます。安井さんは「車内がたばこ臭い」と巡査部長らに口頭で抗議し、後日、警視庁に抗議書を送付したが、回答は得られなかったとのことです。

ところで、国内第1号の禁煙タクシーが認可されたのは1988年です。その後、2000年8月に規制緩和で認可制が届け出制になり、03年5月施行の健康増進法が追い風になり、普及が進みました。同法は、官公庁などの施設の管理者は「受動喫煙防止のために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と、公共施設での受動喫煙防止を努力義務に規定し、煙害を訴える世論を高めました。

安井さんは「警視庁は法を順守させる立場の機関。たくさんの人がなかば強制的に乗車させられるパトカーの受動喫煙が野放しにされているのはおかしい」と話しているということですが、訴訟で都がどう対応していくのか見物です。

今回の東京のタクシーほぼ全面禁煙化は、東京の法人タクシーの9割近くが加盟する東京乗用旅客自動車協会と東京都個人タクシー協会が全面禁煙を決定しました。これにより、都内のタクシー約5万5000台のうち、業界団体非加盟の約3000台を除く約5万2000台(95%)が全面的に禁煙となったわけです。

同時期に、埼玉県、福井県も禁煙化するそうです。神奈川や千葉などでは既に同様の措置がとられており、これで首都圏を含む15都県のほとんどのタクシーでたばこが吸えなくなったわけです。群馬、福岡、奈良などでも禁煙化が予定され、今後も全国的に広がりそうな趨勢にあります。

1月7日の東京タクシーほぼ全面禁煙化の日、あるお昼のバラエティ番組で、直木賞候補作家・梁石日氏の自伝的小説『タクシー狂操曲』を映画化した『月はどっちに出ている』を監督した崔洋一さんが、「私は喫煙者だが、受動喫煙は大いに迷惑。今回の禁煙化に大賛成」とコメントされていました。喫煙者も快く思えない受動喫煙を、強制的な権力を振るう警察が市民に押し付けるというのは、判決がどうこう言う前にさっさと改められるべきでしょう。

ちなみに当地北海道では、女性の喫煙率が高く、くわえたばこでスイスイと走って行くおかあさんの姿を対向車に見かけたりしますが、子供さんの健康を考えれば一種の虐待といえるかもしれません。札幌のタクシーは、昨年11月、運転手が禁煙となり、乗客を含めた全面禁煙実施も今年の11月をめどに検討されています。一日も早く全面禁煙化されることを期待しています。

(2008年1月17日 記事提供 日経メディカルニュース)