Lesson195


「本数を減らす」「軽いたばこ」はNG


かつてない“禁煙ブーム”到来、
成功に導くための指導のコツは?

 10月1日に施行されたたばこの増税をきっかけに、かつてない“禁煙ブーム” が訪れています。禁煙外来を設ける医療機関には患者が殺到し、10月上旬には、 経口禁煙補助薬であるバレニクリンが欠品となったほどです。

  国際的にも禁煙の流れが加速する中、医師には、禁煙促進のための積極的な関 与が求められています。ニコチン依存症は病気であるとの認識から、禁煙治療は 2006年に保険適用となり、バレニクリンとニコチンパッチの2つの薬剤が保険診 療で使用可能です。本特集では、禁煙を成功に導くための問診や指導のコツ、禁 煙補助薬の上手な使い方など、禁煙治療の実践的なテクニックを紹介します。

特集●明日からできる禁煙治療 Vol.1
「本数を減らす」「軽いたばこ」はNG
成功の第一歩は禁煙補助薬の上手な活用


 かつてない“禁煙ブーム”が訪れる中、医師には、禁煙促進のための積極的な関与が求められている。本特集では、禁煙を成功に導くための問診や指導のコツ、禁煙補助薬の上手な使い方など、禁煙治療の実践的なテクニックを紹介する。


 10月のたばこ値上げを機に、禁煙にチャレンジする人が急増している。禁煙外来を設ける医療機関には患者が殺到し、10月上旬には、経口禁煙補助薬であるバレニクリン錠0.5mg、同錠1.0mg(商品名チャンピックス)が欠品となったほどだ(関連記事:2010.10.14「禁煙希望者が殺到 禁煙補助薬チャンピックスが欠品に」)。

  10年以上前から禁煙外来を設けているたかの呼吸器科内科クリニック(熊本県八代市)にも、たばこの値上げをきっかけに新規の受診患者が押し寄せている。例年は平均して月10人に満たなかった新規患者が、今年は9月だけで75人。10月以降は、経口禁煙補助薬が欠品(2011年1月に新規患者への供給開始予定)になったため新規患者の受け入れを一時中断しているが、それでも10月末時点で、65人が予約待ちの状態だ。

広がる喫煙者包囲網
  禁煙の流れが加速している背景には、世界規模での社会的な変化がある。2005年には「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が国際法として発効した。たばこ価格や税の引き上げ、喫煙場所の制限などのたばこ規制が国際的に推進され、公共スペースでの禁煙を法制化している国が増えている。

  国内でも最近、受動喫煙による健康被害などを防止するため、職場や飲食店では禁煙の動きが広がっている。厚生労働省は今年5月に、職場は原則全面禁煙、または空間分煙とすべきとする内容の「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会報告書」を発表。横浜市では同じく今年4月から、全国に先駆けて公共施設での「受動喫煙防止条例」条例を施行している。

  たばこの健康被害の大きさを示す報告も年々クローズアップされており、9月には、受動喫煙で年間6800人が亡くなっているとの推計結果を厚労省が発表している。

麻薬や覚醒剤以上に高い依存性
  たばこは体に害だということは、既に多くの人が知っている。しかし、その依存性の強さゆえ、簡単にはやめられないのもたばこの大きな特徴だ。

 たかの呼吸器科内科クリニックの高野義久氏は、「たばこは嗜好品で本人が好きで吸っていると考えられがちだが、喫煙者の7割はニコチン依存症。ニコチンは麻薬や覚醒剤など、他の依存性薬物と同等かそれ以上に依存性が高いとされており、自分の意思でコントロールするのが難しい」と話す。

  喫煙者では、タバコを吸うことでニコチンが脳内のアセチルコリン受容体に結合すると、ドパミンが放出されて快感や報酬感が得られる仕組みになっている(図1)。

図1 なぜニコチン依存症になるの

 また、喫煙本数を減らしたりニコチン含有量の少ない表示のたばこに替えたりして、徐々にニコチン摂取量を減らそうとする人は多いが、数々の研究から、節煙しても体内のニコチン摂取量はほとんど変わらないことも分かっている(関連記事:2010.4.16「たばこの本数は徐々に減らすべきか」)。

  「軽いたばこに変えたり本数を減らすと、1本を深く根元まで吸い込むなどして、無意識に同じ量のニコチンを摂取しようとする。かえってニコチンの離脱症状が強くなり、やっと吸えたときの快感も大きくなる。禁煙する場合に最も大事なのは、一気にやめること」と高野氏は強調する。

保険診療の実施には「ニコチン依存症管理料」の届け出が必要
  ニコチン依存症は病気であるとの認識から、禁煙治療は06年に保険適用となった。保険診療は「ニコチン依存症管理料」を算定して実施する。算定には、所定の基準を満たして都道府県の社会保険事務局に届け出る必要がある(表1)。


表1 ニコチン依存症管理料を算定するための主な条件

<施設基準>
●ニコチン依存症管理施設の申請
●担当の医師、看護師の配置
●呼気中の一酸化炭素測定器の導入
●敷地内禁煙
●年1回、社会保険事務局長に禁煙成功率を報告

<対象患者>
●ニコチン依存症に係るスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断(5点以上)
●ブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上
●ただちに禁煙することを希望し、禁煙治療を受けることを文書で同意
●初めて禁煙治療を受ける、もしくは前回の禁煙治療から1年経過

参考:日本禁煙学会のホームページ

 治療開始までの一般的な流れは、(1)問診票を基に面接(保険適応の条件を満たすかも確認)、(2)呼気一酸化炭素濃度を測定、(3)患者にニコチン依存や禁煙の害などについて説明、(4)治療の同意を得て開始―となる。日本循環器学会などの関連学会が作成した「禁煙治療のための標準手順書」なども参考にするといいだろう。

  主な禁煙補助薬には、ニコチン製剤のニコチンパッチ、ニコチンガムと、経口禁煙補助薬であるバレニクリンがある。保険診療で使える薬剤は、バレニクリンとニコチンパッチの2つだ(表2)。

表2 バレニクリンとニコチンパッチ

禁煙補助薬で成功率は1.6〜3.2倍に
  2剤とも、禁煙により欠乏するドパミンがなくならないよう作用するため、イライラや不安、集中困難といった離脱症状を軽減できる。そのため、自力で取り組むより楽に禁煙できるとされ、禁煙成功率も高いことが明らかになっている。一般的な禁煙成功率は、自力での禁煙を1とすると、ニコチンパッチは1.66倍(Stead、2008)、バレニクリンは3.22倍(Cahill、2007)だ。

  バレニクリンは、ニコチンの類似物質でニコチン受容体に選択的に結合する。少量のドパミンが放出されて禁煙欲求を抑えると同時に、ニコチンの結合を妨げて喫煙による満足感を抑制する。たばこをおいしく感じさせなくするのが最大の特徴だ。

  服用期間は12週間。「最初の1週間は薬剤に徐々に慣れるための期間となっており、喫煙したままでもいい。ただし多くの場合、吸ってもおいしくなくなるので、禁煙開始の8日目には自然とやめやすくなる」と中央内科クリニック(東京都中央区)副院長の村松弘康氏は話す(図2)。

図2

 一方のニコチンパッチは、たばこの代わりにニコチンを経皮的に補充することで禁煙時の離脱症状を軽くする作用がある。用量は3種(30mg、20mg、10mg)があり、これを徐々に少ない量にして、8週間継続する。こちらはパッチを貼る日から一気に禁煙しなければならない。

  主な副作用としては、バレニクリンは吐き気、ニコチンパッチでは皮膚のかぶれがある。両者の特徴を説明した上で、どちらの治療法を選択するか患者と相談していくが(前ページの表1)、基本的には、成功率の高いバレニクリンを第1選択肢にしている医療機関が多いようだ。

  石川県立中央病院呼吸器内科診療部長の西耕一氏は、「バレニクリンはまれにうつや自殺企図といった精神的副作用の危惧もあるため、精神疾患のある人では基本的にニコチン製剤を使うことが多い。一方、ニコチン製剤は血管収縮作用があるため、心・脳血管障害がある人ではなるべくバレニクリンを選択する。また、以前禁煙にチャレンジしたことのある人なら、前回と違う方の薬剤を選択するのが基本」と話す。

  禁煙治療にかかる費用は、自己負担が3割でニコチンパッチの場合は1万2000円程度、バレニクリンは1万8000〜1万9000円程度。いずれの方法でも1日200円程度の負担だ。「毎日1箱たばこを吸うより安く、費用の面でも患者に勧めやすい」と村松氏は話している。

(2010年11月17日 提供:日経メディカル)