Lesson104


ニコチン中毒治療は有効



BMJ誌から
禁煙を望まない喫煙者にもニコチン置換療法は有効
6カ月間の禁煙に成功する人の割合は対照群の約2倍

「今、禁煙したいですか?」という問いに対して「いいえ」と答えた人々を対象に、ニコチン置換療法の安全性と有効性を調べた無作為化試験の系統的レビューとメタ分析の結果が、BMJ誌2009年4月11日号に報告された。論文の著者である英国Birmingham大学のDavid Moore氏らによると、6カ月間の禁煙に成功する人の割合が、介入群では対照群の約2倍に上ったという。

 過去に禁煙を試みたことのない喫煙者はほとんどいないだろう。しかし、その成功率は低い。理由の一つは、有効な禁煙支援法を利用していない点にある。

 現在、最も広く知られている禁煙支援法がニコチン置換療法だ。英国では、ガム、吸入器、トローチが承認されている。

 著者らは、禁煙を望まない喫煙者に対するこれらのニコチン置換療法の有効性と安全性を調べるために、無作為化試験の系統的レビューを行った。

 コクランライブラリ、Medline、Embase、CINAHL、PsychINFO、Science Citation Indexに1992年から2007年11月に登録された無作為化試験の中から、条件を満たす研究を選出。未発表の試験も含めた。

 対象は、禁煙できない、または禁煙を望まない喫煙者で、介入は、ガム、吸入器、またはそれらと行動支援の併用とし、対照群には偽薬、治療なし、ニコチン置換療法以外の禁煙補助薬、心理学的介入(行動支援など)を適用し、禁煙率を報告していた試験を選び、研究の質を評価し、データを抽出した。

 主要アウトカム評価指標は、治療中に開始した禁煙の6カ月継続とし、追跡期間終了時の禁煙率、6週目から追跡終了時までの持続的な減煙、追跡終了時の減煙成功者の割合、追跡期間中の有害事象などを2次評価指標に設定した。

 7件の研究が条件を満たした。6件は企業の後援を受けており、うち2件は未発表の研究だった。1384人が介入群に、1383人が対照群に割り付けられていた。4件がニコチンガム、2件が吸入器、残りの1件は、ガム、吸入器、パッチから自由に選択となっていた。ニコチン置換療法は6〜18カ月継続、その後、12〜26カ月の追跡が行われていた。

 研究の質はいずれも高かった。

 禁煙できない、または禁煙を望まない人々が対象だったため、主要アウトカム評価指標はすべての試験で、禁煙でなく減煙だった。二次評価指標に禁煙率が含まれていた。

 企業が後援した研究では、持続的な減煙は、6週から16週(またはそれ以降の受診時まで)の喫煙本数がベースラインの2分の1未満と定義されていた。減煙達成は、受診時の自己申告と呼気中の一酸化炭素レベル(ベースラインに比べ1ppm超低下が持続しているかどうか)によって確認していた。

 行動支援は、ブックレットの提供から、受診時の減煙指導、専門家による相談と問題解決まで、様々な方法で行われていた。
主要エンドポイントである禁煙の6カ月継続について、個々の患者のデータが利用できたのは、ガムを適用した4件の研究と吸入器を使用した1件の研究だった。6カ月間の禁煙に成功したのは介入群の6.75%、対照群の3.28%だった。不均質性は中程度(I2=52.4%)だったが、適用されたニコチン置換療法の差が不均質性をもたらしたことを示す情報はなかった。5件の研究の組み入れ条件とプロトコールは同様だった。

 対照群と比べた介入群の相対リスクは、固定効果モデルで2.06(95%信頼区間1.34-3.15)、ランダム効果モデルでは1.99(1.01-3.91)となり、介入の有効性を示した。治療必要数(NNT)は29だった。

 6週目から追跡終了時まで禁煙が持続した人は、介入群1.6%、対照群0.4%と少なかった。相対リスクは3.44(1.48-7.96)。

 各試験の追跡終了時の点禁煙率が、治療終了から1カ月、3カ月、6カ月、12カ月、20カ月の時点で評価されていた。全体では点禁煙率は介入群9.3%,対照群5.4%で、相対リスクは1.72(1.31-2.26)になった。

 そのほかのアウトカムに関する評価も介入の有効性を示した。減煙成功率は介入群で高かった。追跡期間終了時の減煙達成者の割合は、介入群が21.8%、対照群は16.5%。持続的な減煙成功者はそれぞれ6.3%と1.6%だった。

 有害事象の発生率には統計学的な差は見られなかった。死亡は両群共に4人でオッズ比は1.00(0.25-4.02)、重症有害事象は両群共に8%未満でオッズ比は1.09(0.79-1.50)、有意事象による治療中止は1.7%と1.3%で1.27(0.64-2.51)。ただし、ニコチン過剰摂取の指標となる悪心は介入群に有意に多かった。8.6%と5.3%でオッズ比1.69(1.21-2.36)。

 ニコチン置換療法は、禁煙の意志を持たない喫煙者に対する有効な介入法であり、忍容性も高かった。だが、多くの研究が、行動支援やモニタリングを併用していたため、それらなしでもニコチン置換療法が有効かどうかは明らかではない。また、禁煙を望む人々を対象にすれば、禁煙成功率はさらに上昇する可能性はある、と著者らは述べている。

 原題は「Effectiveness and safety of nicotine replacement therapy assisted reduction to stop smoking: systematic review and meta-analysis」、全文は、こちらで閲覧できる。
大西 淳子=医学ジャーナリスト

(2009年4月22日 記事提供 日経メディカルオンライン )