Lesson1

「禁煙なんて簡単。もう何十回もやったよ」という笑い話があります。禁煙は古くて新しいテーマです。よく知られた禁煙法には、タバコを吸いたくなったら冷たい水を飲む、アメをなめる、ガムを噛む、散歩をするといった行動置換措置法、タバコが原因で起きる病気に対する恐怖心を植えつける感情的方法など、いくつかの方法があります。

こうしたやり方は習慣依存に関してはかなりの効果が期待されますが、最終的には意志の力に頼っているところがウイークポイントです。薬物中毒といえるニコチン中毒の人が、我慢しきれず禁煙に何度も失敗するのは無理からぬ 面があります。

そこで登場したのが科学的に裏打ちされた「ニコチン置換療法」です。この治療法は、20年ほど前にスウェーデンで開発され、欧米ではすでに50か国以上で実績を挙げています。しかし、日本ではまだ2年の歴史しかありませんから、普及はこれからです。

タバコではなく、ガムからニコチンを補って、禁煙中に起こるニコチン切れの辛い状態を抑える方法です。タバコに換えてニコチンを含んだガムにするところから置換法と呼んでいます。

たいていの喫煙者は朝起きたときに「まず一服」したいはずです。寝ている間はタバコを吸わないので、ニコチン切れになった状態だからです。一服するとニコチンは肺から血中に取り込まれ、血中ニコチン濃度は急激に高まります。そこで満足感が得られ、ひと区切りつきます。そして、時間の経過とともにまたニコチン濃度は下がり、2本目、3本目に手が伸びる、その繰り返しが続くわけです。

ガムの具体的な使用法は後述しますが、「一個のガムに含まれるニコチン量 は2mgで、そのうちのほぼ半分の1mgが体内に吸収されます。これは中程度の強さのタバコ1本に含まれるニコチン量 に匹敵しますから、軽いタバコを吸っている人には強く感じられるかも知れません」。

ニコチンガムはいつまでもクチャクチャやらず、
頬と歯茎の間にはさんでおく

ニコチンガムはチューインガムと同じ基材(レジン)が使われているので便宜的に「ガム」と呼んでいますが、適切なネーミングではありません。市販されているガムとは用法が異なり、ただクチャクチャと噛むのではないのです。 正しい使用法は、口に入れたら15回ほど噛んでガムに含まれているニコチンが出てきたら、頬と歯茎の間にはさんでおきます。ニコチンは口の粘膜から吸収されます。1分ほどで味がなくなりますから、また15回ほど噛んでやります。これを30分くらい繰り返してガム1個の役目は終わりです。 噛み方を間違えると効果が薄れるだけでなく、かえって胃や腸を荒らします。

 

血液中のニコチン濃度の変化

ニコチンガムには1個あたり2mgのニコチンが含まれています。これを噛んで口に含むと、約1mgのニコチンが体内に補給されます。中程度の強さのタバコ1本分のニコチン量 です。タバコに比べ、急激な血中ニコチ ン濃度の上昇はありませんが、効果 はしばらく持続し、ニコチン離脱状態を緩和してくれます。

やめたい気持ちさえ強ければ、
意志が弱くても(?)大丈夫!

ニコチンガムで補給するといっても、タバコとそっくり同じ効果 があるわけではありません。例えば、タバコのように血中濃度が急激に上昇するわけではないし、その到達濃度も高くありません(下のグラフ参照)。ですから、「ちょっと一服」のような爽快感はありません。あくまでもニコチンが不足して不愉快な症状になるのを抑え、禁煙を継続させる方法と理解して下さい。

このニコチンガムを使った禁煙法は6〜7割という高い成功率を残しています。従来の方法では強い意志の力が欠かせませんでしたが、ガムと医師の指導、励ましがそれにとって代わったので比較的楽に禁煙が続くのです。しかし、それでも100%ではありません。最終的に成否を分けるのは、禁煙意欲と医師を含めた周囲のサポートです。

タバコでダイエット?
いえ、死期を早めるだけ

タバコはダイエットやパーキンソン病に効果があるという説があります。確かに、タバコには脂肪の沈着を抑える成分があるといわれ、パーキンソン病では実際に効果 があったというデータも発表されています。

「しかし、百歩譲って効果があるとしても、予防のために吸うのは死の確立を高めるようなもの。特に、ダイエットなら他に有効な方法があります。最近は禁煙外来を訪ねてくる女性が急速に増え、ほぼ3割を占めています。一時のファッション感覚に流されないで」。

他文献より